優雅な生活が最高の復讐(しゅう)である

 NHK BSプレミアム
放送日: 2012年3月25日(日)
放送時間:午後10:00〜午後11:30(90分

 半分ドラマ、それも舞台劇のような体裁で、半分ドキュメンタリーというちょっと実験的な、テレビドラマのシナリオを書いた。

 タイトルが
 『優雅な生活が最高の復讐である』

 作詞家の安井かずみさんが、ガンになった時、加藤和彦さんとともに、当時はまだ日本であまり実践されてなかった、クオリティオブライフの優先。
 過酷な治療を受けるよりも、余命を過ごす生活を充実させるという姿を、安井さんが残した日記を元に描いている。

 昨年秋に、同じBSで、加藤さんのドキュメンタリーが作られて、私もインタビューなど受けたのだが、
 そこから今回の企画が起ち上がった。

 『紺屋高尾』公演から『幕末ガール』台本制作の綱渡りの時期で、ギチギチだったのだけど

 加藤さんのことなれば、なんとしてもやりたいと思って。正月あたりに、ひとり取り組んでいた。

 実は『うたかたのオペラ』の舞台を創ってる時、加藤さんと安井さんの才能の話になって

 安井かずみという人は、マリー・ローランサンとか、シャネルとか、そういう感じの、極めてお洒落で美しくありつつ、ひとつの時代を先頭で駆け抜けて、多くの影響を残したような女性像として、ドラマになる人なんじゃないか、みたいなことを言い合った。というか、私が一方的に言ってしまった。

 その時、たぶん加藤さんは、様々な屈託を抱えておられ、かずみさんとのことも、かなり封印しておられる気配ではあった。
 かずみさんが亡くなった後の再婚が早すぎると、ほうぼうから非難されたとか、
 そこらへんの事情を、実は私はよく知らず、思えば無邪気にして失礼なことであった。

 でも
 『うたかたのオペラ』の仕事に取りかかるなかで、そろそろこれらの曲も歌おうか、ということもご自身で言ったりしていたから、
 その時の話は、それなりに盛り上がった。
 当然だけど、加藤さんの、作曲家からみた安井かずみ論は、深く面白かった。

 そして、加藤さんはとても大事な人を失ったのだなあ、と思った。
 男女のことや、俗世の営みの行き違いはさておき、音楽家として、己を触発してくれる最高の詩人を失った痛手は、うかつな私にもよく分かったのである。
 音楽に止まらず、この世の森羅万象に於いて、論理分析に長けていた加藤和彦には、いつも新鮮な言葉が必要だったのだ。
 うまい空気のような、言葉が……

 まあ、今回は、一年の闘病記がメインなので、そこらのことは、あんまり描けなかったけど。
 
 それでも、いわゆる難病モノのお涙ドラマにはしたくなくて、加藤さんの優しく優雅な姿や、そんな加藤さんを、一途な愛とお金の無尽蔵の投資で、育てあげたとも言える、かずみさんの、豪華な新婚旅行のような、どこまでも前向きな最期の日々を、書いたつもりである。

 計画ではそれを、普通のドラマとはかなり違う、演劇的な手法で演じ、収録することになっていた。
 出演者はふたりきり。

 我が身が遠く松山・利楽村にいて、その稽古や本番に立ち会えなかったのが無念である。

 放送は今度の日曜日。
 NHK・BSブレミアムというチャンネルです。


 ちなみに大好きなジュリーの名曲
 『追憶』
  は安井さんの詞です。

 つかさんもここぞの時に、よく芝居で流してました。
 聞け聞くほど、歌えば歌うほど、
 ニーナって誰よ、
 という感じですが。安井かずみがニーナと書けば、とにかくニーナなんです。

 加藤さんがそう言ってた。
 ズズの詞は、まったく脈略がないんだけど、古いヨーロッパの町のスナップみたいに、一瞬でいろんなことが分かるんだ、と。
 そう切り取ってる。
 人生が垣間見えたり、事件が写り込んでいたり。ある時は亡霊が見えたり。

 ジュリーと言えば、阿久悠ということになってるけど、安井さんも極めて良いのです。
 

 
 
 
 
 

 

   


関連記事

この記事のハッシュタグに関連する記事が見つかりませんでした。

アーカイブ