坊ちゃん劇場に建った舞台装置

 僅かの帰宅を経て、再び、東温市・利楽村に。
 実はマリナーズ対巨人という試合を、ドームの片隅に座ってこっそり見たりして、東京生活をちょっと楽しんだりしました。
 しかし、ここからは『幕末ガール』三昧。
 
 今日は東京からスタッフが大挙して、利楽入りし、いよいよ臨戦モード全開であります。

 すでに秋田・角館で製作された大道具も運び込まれ、劇場では立て込みが始まっている。
 デザイナーは、金井大道具総裁の金井勇一郎氏、なのに、製作は角館の、わらび座スタッフ。

 そもそも距離感がおかしいでしょ、東京の方が近いでしょ。なんでわざわざ角館から。

 そもそも、製作会社の社長なのに、金井さんは。
 ま、そこらへんは、経済的な事情など、あるわけだが。一方で、芸術的としか言えぬ、舞台美術家・金井勇一郎氏の物作りへの姿勢がこの矛盾を支えている。
 そこら辺は、照明家・塚本悟さんも同じ姿勢だ。
 現地スタッフが現場をやるので、自社の仕事にはなってないからな、この仕事は。
 でも、面白そうだからやろう、とワシらチームで言い合って、やっている。

 もっとも、それでレベルが落ちたり、ショボクなったら、こりゃイカン。
 断固ワタシも闘う必要が出てくる。

 が、昨日、三分の二ほど起ち上がった装置を見て、
 わらび座・宮本棟梁はじめスタッフ一同、の頑張りに胸打たれた。
 良い仕事をしてくれている。

 建設途中の装置が、たまたま訪れる取材の人や関係者たちも、驚かせ、すっかり引きつけている。

 今回は一年ロングランに向け、劇場改造から取りかかろう、みたいな、壮大なセットプランであった。
 鉄工所を入れて、常設バトンを切り落とす工事まで入れた。
 数々の修羅場をくぐってきた金井さんは、それぐらい当然でしょと涼しい顔だったが。
 猿之助さんとか蜷川さんなんかしょっちゅう、大工事入れてるじゃん、と。
 その基準持ち込みますか、ここに……

 ワシは、最初、金井さんと打ち合わせた時、これは、きっと現場から泣きが入ってくると、覚悟した。
 予算が無理とか、人手が足らぬとか。 

 金井さんは、フツー、演舞場とか帝劇とかが主な活動フィールドなので、そもそもの構想の規模が桁外れなんだ。
 しかしここは、東温市の利楽村なんだ。

 たぶん、わらび座や、坊ちゃん劇場ではこの発想に対応しきれまい。

 極めて面白いけど、たぶんやりきれないだろうな、と無礼ながら想定し、ワタシなりに変更の用意は密かにしていたのだ。

 だが、宮本棟梁たちは、ついぞそれは出来ません、とは言わなかった。
 苦しいはずだが、ギブアップはしないと決めているかのように。あらゆるリクエストを受け止めていた。
 
 そして、こうして間に合わせて、どーんと創り上げてきた。
 劇場も、それに対応して大工事を受け入れてくれた。

 坊ちゃん劇場にそびえ立った、角館産の大道具は、少し雪の香りがする気がする。
 そして劇場の三分の一を占め、圧倒的な存在感で空間を変貌させている。

 他の劇場に持ち込みは不可能な、今、ここでしか見れない、体感できない舞台である。

 昨日、稽古終わりに、劇場に立ち寄った、坊ちゃん劇場の至宝というべきベテラン俳優・山中城治さんが、

 これは凄いよ、坊ちゃん劇場始まって以来の規模だし
 ファンクラブも驚くでしょうよ、

 と浮かれ、
 舞台で歌い始めた。

 鳥がとまり、さえずる樹のように、役者が登って歌いたくなる舞台って
 理想だよな。

 東京から飛行機に乗って、松山まできて、そこからさらにバスとか電車で小一時間。
 伊予電の見奈良という駅から歩いて十分。夜は真っ暗で、おまけに、隣は刑務所である。

 来れるもんなら来てごらん、て感じだが

 ワシらは、ここでしか見れないもんを創って、世界を驚かせてやろうと真剣に企んでいる

 
 

 
 
 

 


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