間もなく開いて

『幕末ガール』の開幕が、明後日に迫った。

 もう出来上がっている。
 劇場はすでに馴らし走行に入って、あとはお客さんを待つだけだ。

 と同時にこちらは、そろそろ帰り支度をせにゃならん。
 長い公演のスタートと「さよなら」とが、同時に押し寄せてくる、複雑な時。

 気が付けば、季節が変わり、店先のみかんも、少し様変わりした。
 
 先日、地元FMの『幕末ガール』番組に呼んで貰って話した。パーソナリティーは、坊ちゃん劇場レギュラーの地元俳優、近藤誠二クンと柳原悠二郎クン。
 FM局が、劇場の応援のため、番組を作ってくれているのだ。

 そこでも話したんだけど
 近藤クンと柳原クンは、この劇場に出演し続けて、食っている。家族だって養っている。

 そりゃ、物価も安いが、こっちは。

 にしても、この小さな地方都市で、舞台だけで食ってる俳優がいることが、すでにスゴイことである。
 でレギュラー番組まで持っている。

 劇場に問題がないワケじゃない。スタッフは圧倒的に人手不足だ。キャストだって、この演目をやるのに、あまりに少なすぎる。
 それこそ、近藤、柳原たちは、2時間弱の間に、何度着替えて、別人となり、登退場を繰り返しているか。
 しかも合間合間で、場転までやってね。それは主演だって、例外ではなく、五十嵐も、裏では時々、何かやる。

 でもそうやって、やり繰りして、一年のロングランを成立させる。
 問題を抱えつつも、とにかくここでは、やり通す、成立させることがテーマだ。
 やめることは、ずっと簡単なのだから。

 でもこの試みが更に続き、状況好転していったなら、それこそは奇跡であり、手本となることだ。
 
 ガンちゃんは、扉座のスターだし、一年、いなくなるのは、劇団にも痛手である。
 ただ、おそらく彼も、一年間、舞台だけで食うというのは初めての経験なのではなかろうか。

 本当に、難しいんだ。
 芝居だけで生きていくのは。

 若い頃は、ドサ周りまでして、芝居で食いたくないぜ、なんてみんな思うんだけど。
 長くこの世界に生きると、それで食ってくということが、どんだけスゴイことか分かってくる。
 そもそも、これで食ってない人は、やっぱり辞めていくしかないんだな。若いうちはともかく、ある程度になると、どんなカタチであれ、ギャラがとれない役者は、役者じゃなくなる。
 これはもう、そういう掟なんだ。

 そういう意味で、ここにいるのは、この舞台で食う人たちであり、真のプロである。
 
 ただ思うに、今ここに欠けていて、次に目指すべきは、ここに夢があるかどうかだろう。
 ここからスターが生まれて、世界に旅立って行けるかどうか。

 ガンちゃんにしても、一年ここにいて食っただけでは、たいしたことだけど自慢にはならない。
もとい、ガンちゃんの場合は、一年ここで呑んだだけでは、というのが正しいが、ともあれ

 ここにいて、東京から忘れられた存在になるのではなく、ここから東京に逆襲がかけられるかどうかが、
 テーマだ。

 五十嵐可絵とか、同じく主役の歌って踊れるのになぜかちょー老舗劇団・民芸座員のイケメン俳優、神敏将とか、アメリカでミュージカルに出ていたガクトみたいな色男、四宮貴久とか。
 彼らが都落ちで食いつないだということでなく、ここから、話題になって、引っ張りだこになるような事件が起こせるかどうか。

 言うまでもないが、事件と言っても、『温泉劇場殺人事件』とか、そういうことじゃないよ。
 公演そのものを、大事件にするのだよ。

 AKBの会いに行けるアイドル、劇場で握手出来るアイドルというコンセプトだって、
 最初は限りなく、怪しいし、うら寂しい感じだったものよ。

 でも、そこからあんなスターになっちゃった。

 ただ。
 思えば、会いに行けるアイドル、劇場で握手、記念撮影出来るアイドル、って、要するに芸能の基本だったわけで
 出雲の阿国のそのずっと昔から、われわれ河原者たちは、そうやって生きてきたんだよね。
 突然テレビに出て有名になった人以外はさ。

 しかも彼女たちは、劇場に出続けることで、技術は日に日に高まり、芸人魂もちゃんと掴んだ。
 誰の目にも分かる競争に晒されて、逞しく、パワフルになった。
 お客さんから、木戸銭を頂いて生きる。拍手を頂く、贔屓にして頂くという、芸能の根本をたたき込まれたんだ。

 だから、骨があるとワタシは思う。
 ちょっとした芸能校のようなものだよ、あれは。
 今はお遊戯っぽく見えてるけど、この後、あの中から必ず本物が何人か出てきます。
 人気はともかく、実力のある舞台女優とかが。
 何しろ、小屋の板=劇場の舞台 が育ててますから。
 
 で実は、坊ちゃん劇場も根本は同じなんだ。
 身近なミュージカル。会いに行ける俳優たち。というか、ここらは利楽村しかスーパーも温泉もないから、会いたくなくてもお互いに会っちゃうし。

 こういうのは今までは、しょぼいことだった。
 ミュージカルスターは、謎のままにいて欲しいとか、そういうものが常套だった。

 でもそれをくつがえす。
 手本はAKBである。

 もしくはJリーグの誕生時を思い出そう。
 かの、ブラジルの英雄・白いペレ、ジーコが。茨城の片田舎の、鹿島村の新設チームに来たんだよ。
 村の定食屋でメシ食って、農家のおばあさんたちと記念写真を撮られてたんだよ。
 
 そこから始まって、今、鹿島は日本でも有数のサッカー地帯だ。合宿なら、鹿島ってことになってる。

 本当にスゴイものは価値観を変えるんである。
 
 われわれはそれをやってみせなきゃイカン。


 その幕開けが、いよいよ明後日に迫ってきた。
 お近くの方は、とにかく早くご来場下さい。
 そして、賑やカニ 騒いで下さい。


 あ、あと
 今回の舞台のテーマは

 賑やカニ、華やカニ です。

 観れば分かる。




 
 
 
  


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