宣言

 今春から、私は 読売巨人軍 のファンになる。

 今、最も地に落ちた球団ではある。
 しかし、その陰で、私にとってとても大事なことが起きた。

 そもそもは巨人少年だったのだ。
 あの頃の日本の少年が、ほぼそうであったように、この私も。
 野球小僧真っ盛りだったころは、北九州小倉に住んでいたが、
 ライオンズではなくて、ジャイアンツ小僧だった。
 年に一回、巨人が西鉄、やがて太平洋クラブ・そしてクラウンライター・ライオンズとのオープン戦で来るのが、年間行事の最大の楽しみで、読売系の仕事をしていたオヤジが貰って来る、内野席のチケットが宝物だった。(ライオンズが埼玉に移る前のことです)
 王も長嶋も生で見てる、柴田も土井も、そして末次が好きだった。
 野球帽だって、一度、太平洋クラブにしたことがあったけど(小倉球場で、東尾や基のサインとか貰ったのでね)、その一度以外はずっと巨人だ。
 
 思い起こせば、厚木高校の高校演劇部員だった、三十うん年前(オヤジの転勤で神奈川県民に)、江川卓という優れた投手を巡って巻き起こった、インチキな出来事が、青春まっただ中だった私には、どうしても受け入れがたく、
 その一件以来、野球に対する思いを急速に失ってしまったのだった。

 表向きはアンチ巨人、しかし、その実、まあどうだって良いや、ってものに、日本の野球はなってしまった。
 その後、野球は、やっぱりいいなあと思い直したのは、大リーグ中継が始まってから。
 近年は、日本の野球より大リーグの方が詳しくなっていた。

 それもこれも、あの事件以来。
 何とも罪づくりなことだったのだよ、あれは本当に。
 そしてその後起きた、清原、桑田の問題。
 あれがもう決定打。
 若者の気持ちを、汚い大人たちが、台無しにしやがって。
 しかも権力使って、好き放題しやがって。

 生涯、巨人は許さんと誓ったものよ。

 しかし、縁あって、十数年ほど前から、私は文京区に越したのだった。
 しかも、文京区内の引っ越しもして、

 東京ドームまで歩いて行けるところに住むことになった。

 でな、白状すると、飯田橋にある劇団事務所からの、辛い打合せの帰り道など、
 時々、辛くて辛くて、ああ、気晴らししたいと、思いつき

 ドームに立ち寄っていたのだった。
 なんせ帰り道だったりするのだ。ドームがな。
 フラリと外野に紛れ込んだりして。
 巨人戦も昔みたく、いつも完売じゃなくなってるからな。

 当たり前だけど、テレビで見るより、生は断然素晴らしい。
 大リーグのレベル、パワーとか、知らんけど、打球の音、ミットの音。ワーッと上がる歓声。
 そりゃライブに敵うものはないよ。
 遠くて見に行けないものなら、仕方ないけどね。

 むろん巨人戦は極力避けたよ、というか、日本ハムが札幌に行ってからは、巨人戦が主になったから、相手チームの応援だよ。その時々にね。
  
 でもね、その度に思う訳よ。
 ああ、こんなに近くに球場があって、プロ野球球団があるんだよな。
 アメリカなら、死に物狂いで応援すんだろうにな……
 応援できたら、楽しいだろうな、なんて。
 だって、サンダルつっかけて来られるんだから、ここには。

 そんでまた、巨人に良い選手がいるんだな。
 坂本なんかショートに立ってる姿だけで、カッコいいし。三遊間に飛んだ球が、抜けていったのを見たことないし。
 豆タンクのような沢村が、低く低く重心を下げて、ゴムまりみたいに投げる姿も、美しいと惚れ惚れする。

 でね、実は数年前から、決めていた。
 最高顧問が球団から消えた時、私は現場に復帰しようと。
 彼一人のせいでもなかったのかもしれぬが、それでも、一握りのオッサンたちが、大きな権力で多くの人の善なる気持ちを踏みにじるようなことは、イカンし、その中心に居たのは間違いないからな。
 しかも、最も善なるものであるはずだし、また、この世で、善であり続けることが可能である稀有にして貴重な営み、であるところのスポーツの世界でな。
 言うまでもなく、この世の営みの多くは、善に留まって、追求することが難しいものばかりだ。
 だからこそ、我々は、曇りなく爽やかな、実力勝負のスポーツを愛するのである。
 実力以外のことで、勝ち負けが決まり、或いは、勝負が誤魔化されて、忸怩たる思いを抱かされ続ける人生に疲れて……

 そのあたりの思いは、フィールド・オブ・ドリームスという映画に、美しく描かれている。
 野球界の人たちは、も一度、あれを見て欲しい。 

 彼は、かなりお歳だから、その時はそう遠くないとは思っていたけど、人の逝去を待つようなのは、気が悪いなあと思っていたところに、今回の騒動での辞任が決まった。

 恩讐の彼方に行こう。

 これを機に、私は今までの確執を忘れようと思う。
 そして、巨人軍が、まことかつてのような輝きを取り戻してくれるまで、応援してみようと思う。
 
 

  

 
 
 
  








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