再演職人 山中崇史と
郵便屋さんちょっと 2016 の公開が近づいて来た。
ゴールデンウィークあたり、わらび座の『げんない』の新版稽古の為に、角館に逗留している頃
PCも携帯して、上演台本と格闘していた。
ほぼ40年前、つかこうへい氏、24歳の作品。今この時、扉座作品として上演するには、脚色がかなり必要であった。
で、わらび座の稽古をしつつ、まだ夜の明けぬ早朝に起きたりして、何とか稽古に間に合わせようと、執筆していたのであった。
この頃は死ぬかと思った。実際に、この時、フェイスブックに載せた、自撮り写真の顔色が悪すぎると、いろんな人に心配された。
確かに、紫色になっている。
そもそも頑張って睡眠を削ってた上に、ところどころ行き詰まりもあったりして
ちゃんとした睡眠がとれなくなっていた。
寝言でセリフ言ってるのが、自分でも分かったりして。
これがイチからの創作なら、いろんな打開策もあるんだけど、
つかこうへい的じゃないと、やる意味がなくなるし、さりとていろんな要素を組み合わせないと、膨らんでいかないし。
悩みは果てなく続いていた。
あの時は、このまま奥羽の山深く消えて
蒸発出来たら、どんなに楽だろうか、と思ったぜ。
歴史的大仕事の『ワンピース』をやり遂げて、心から一息つきたい時期なのに、何だって、この上にまた、難しい大冒険に出なきゃイカンのか俺は、と……
見城さんのアドバイス通り、新作になど挑まず、つか版の再演にしとけばヨカッタと思った。
連続安打は、一本のまぐれホームランよりも難しいものだ。
もっとも、そんな苦しみも、もう過去のこと。
諸君、明けない夜はないよ。
今、その苦しみの果てに生まれた台本で、ちゃんと通し稽古が出来ている。
しかも、ちゃんと面白くなりそうな感じがしている。
つか版忠臣蔵の堂々たる二番煎じでありながら、新味の別物になっている、と思う。
別物感の大きな理由のひとつは、崇史と、新鋭たちの登場である。
今回は、新しい団員を抜擢した。
砂田桃子なんて、研究所出て3年ぐらいの子が、大役を担ったりしている。その成果は、お客様に定めて頂くとして、
常に新たな力が現れて、劇団の歴史を塗り替えて行くと言うのが、わが扉座の伝統であり、それが出来ているうちは、劇団を続ける意味もあるのだろうと考えている。
年寄りの仲良し同窓会にしてしまうには、劇団維持というものは苦労が多すぎるんだ。つかこうへいが、かつて言ったように『前進か死か』しか、道はないのである。
思えば、つかさんは、常に真っさらな新人たちと格闘していた。堅実派の私には、とてもそんな芸当は出来ないが、
停滞するぐらいなら、本気でやめようという気概ぐらいはあるのである。
ま、そもそも真に堅実派の人間が、芝居なんか、しかも劇団でやり続けるはずがないのではある。
我もまた、紛れもなき、無謀なる愚か者である。
そして崇史くんである。
ななななんと、扉座の新作出演は、9年ぶりなんだって!
そんなの劇団員と言えるかね。
いやいや時々、出てたよ、と思うけど、
『百鬼丸』『アトムへの伝言』『いとしの儚』
すべて再演だったんだって。
新作は私の祖母が亡くなった時に、捧げて書いた『ご長寿ねばねばランド』以来なんだってよ。
あの時の崇史は、ケッタいなホテル経営の九十歳のジジイ役で、
ほぼ私のオヤジ・横内正純の真似をして、気楽に身内を笑かしてただけだった。
今回は、約二万語のセリフを、速射砲のように吐き続けなくてはならぬ、つか芝居の主役である。
郵便局長役である。
泣ける、キマル、燃える、のメインだ。
今回そうは謳ってないけど、かつて、つかさんがよくやっていた
山中崇史スペシャル と言うべき公演である。
※実はつかこうへい事務所公演で『岡森諦スペシャル・熱海殺人事件』もちゃんとあったんだよ。ホントだよ。凄いんだよ、岡森さんは。紀伊国屋ホールだったんだよ。
しかし崇史は、つか世代ではない。
だから、つか式にしたい時には、こんな感じと教えなきゃいけない。
ここが、つか版忠臣蔵と大きく違う。
山本亨さんは、何にも言わなくても、そのまんま、一級品のつか式にしてくれたからな。
で、あーだこうだと、崇史と稽古しつつ、そもそも、つか式とは何なのか、こちらも再検証する良い機会となった。
で、まあ、ここは崇史式の方が面白いなと、敢えてつか式を取り下げる、取捨選択をしたりして。
つかこうへいの歌舞伎化なんて、意味のないものだろうから。
ていうか、あの歌舞伎でさえ、日々進化していくのだということを、ワンピースの日々、目の前で体験してきた者としては
今この時を生きて、何かを生み出す以上は、
すべて、新たなクリエイトであるべきなのだと、己に言い聞かせるのである。
素晴らしきスタイルの継承をするにしても、それをクリエイトとしなくては、つまんないじゃないか。
で、つか式を、一所懸命クリエイト致しました。
今はもう、早く、皆さんに見て頂きたいです。
お蔭様で、座高円寺の公演は、完売間近であります。今ならまだ間に合う日もありますから、ご予約はお早めに。
厚木公演は、土日ともに、まだ余裕ございます。
出来れば早く観て、感想などお聞かせ頂きたいのですがね。
ともあれ、ご期待ください!