謹賀新年!
今年もよろしくお願い致します。
結局大晦日も、ホン書きをやって、おらが春はまだ先ですが、皆さまにおかれましては、健やかな新春をお迎えのこととお喜び申し上げます。
さて、先日のことです。まったく正月らしくない話題なのですが。
私、横内一家で熱海に行ってまいりました。昨年が両親のダイヤモンド婚というやつで、お祝いの会を皆で開いたのですね。
結婚満六十年という記念で、これはねえ、大変な大事業です。
まず離婚していない。そして、どちらも健在という条件が必要です。うちの両親はたいしたもんです。しかも、ふたりとも自動で熱海まで来て、酒飲んだり、風呂入ったりしてますからね。
とにかく、めでたいめでたい、と、この日だけは仕事も休んで、一泊二日したわけです。
ところが、不穏なメールが、扉座事務所あっこ君から入りました。
PCや書きかけの台本の入った横内さんのものと思われるカバンが、熱海署に遺失物として届いていると、熱海署から連絡がありました。以下の番号に急いで連絡してください。
慌てて、熱海署に電話した時はすでに、営業時間外で、明日じゃないと対応できないということでした。
とは言うものの、ハテと私は思いました。
おれ、PCなんか熱海に持ってきたかいな……
しかし今、熱海で、そんなもの落とす横内さんは、俺しかいないだろう。何しろ、書きかけの台本なんていうんだから。第一、何か確証があって、扉座に電話が来たんだろうし。
そりゃ、横内のものと思われるだろうよ。
とは言うものの、どうにも覚えがないんだね。
横内は横内でも、親父のカバンじゃねーの?と疑ってもみたけど、
さすがに八十四歳、PCなんか使ってないんだな。書きかけの台本も、オヤジが持ってるはずがないし。
もしかしたら、隠れてコッソリ台本書きを始めたんじゃないか、という説も出た。
息子に出来るんだから、父親にも出来るだろうと、思ったんじゃないか、なんて。
しかし、当然のこと親父も知らんと、否定する。
もっともオヤジも、アレ、俺か?なんて顔してましたよ。それなりの歳ですから、ボケという問題もあるしね。
かくいう私も、ホン書きのさなかだから、軽く記憶とか失ってるのかも、と自分で自分が怖くなった。
何とも、狐に鼻をつままれた感じで、その夜は更けていきました。
さて翌日、熱海署に電話を掛けると、確かに、PCと書きかけ台本と、扉座のチラシがたくさん入ったカバンが届いているという。
え、それ、なんていう台本ですか?
いえいえ、あんまり細かい情報を電話でお伝えするワケにはいかないのです、とおまわりさんは言ったけど、ちょっと食い下がってみると
「コンタクト・ブルー」ですね。
いやいや、これは明らかに私の仕事ではない。
もし自分が知らないタイトルで、自分が書きかけていたとしたら。これはかなり恐ろしいホラーですよ。
でも、なんか聞き覚えがあったのですね。まったくの無関係ではない感触がした。
何なんだ、いったい、ああ気持ち悪い……
そのかばん、熱海のどこに落ちていたんでしょう?
街ではないです。電車の中です。上野湘南ラインの車内で、終点の熱海で回収されたものです。
諸君、これはねえ、推理小説の書き方教室みたいな話だよ。
この瞬間、ずーーーーーーーーーーーっとモヤモヤしていた謎が、さーーーーーーーーっと解明されていった。
つまり、それはたぶん東京、神奈川辺りで車内に忘れられて、熱海でやっと回収されたんだね。
で熱海署の人が、調べて、これは扉座と関係があるのは間違いないと、電話してくれたわけだが。
電話を受けた扉座事務所あっこ君は、横内家が熱海に行くことは、同じくちょーベテラン扉座事務員である横内オヤジから聞いて知ってたから、てっきり、私が熱海で落としたと思ったんだね。
それも展開にまったく無理がない。
ところが私は熱海にいたのは偶然なんだね。
そして、あとはすべて理に適った、必然だった。
俺のじゃねえな、と事務所赤星に電話してる時、にしても誰のカバンだ?
「コンタクト・ブルー」って何よ?
と語り合い、その時、ふたり同時に、アッと声が出たね。
先日、研究所卒業公演『LOVELOVELOVE20』のためのオーディションがあって、若者たちの創ったエチュード作品を五時間分見たんだけど、確かに、そこにそんなタイトルの短編があったのだった。
うちの研究生たちは、この時期、ほぼ全員、書きかけの台本を持っている。
聞けば、一昨日の夜は、そのオーディションを終えて、いよいよ本格的な作品作りに入るための飲み会が、犬飼指導員の音頭で、熱く開催されたという。
あ、「コンタクト・ブルー」の研究生がへべれけに酔っぱらって、電車の中に置き忘れたんだね。大事なカバンを。
それが東海道線で、熱海まで行っちゃったんだね。
代わりに俺が引き取ってやろうとしたけど、印鑑付きとかの書類がないとダメらしく、断念した。
にしても、面白い話があるものだね、と横内家で笑いあったものよ。
んが
ここにはもう一つ、オチがついていて。
妹一家は車で来ていて、帰りに、箱根とか寄っていったらしいんだが
途中のどこかで、姪がスマホを落としたと、大騒動になったのだった。
幸い、ソバ屋でみつかって、翌日姪はひとり、登山鉄道で引き取りに行ったそうな。
人の忘れ物、笑ってる場合じゃなかったんだね。
と、洒落たエピローグまでついてる、推理小説教室であった。
そんなこんなで、忘れ物に気を付けて、私は今年も頑張ります。
ぜひ、劇場にいらしてください。
ちなみに事務員あっこ君は、昨年から正式に扉座常勤となっています。
皆さま、お見知りおきの程を。