ジパング青春記

 暮れから正月にかけて取り組んでいたのが、4月から秋田角館・わらび劇場で上演される。

 ジパング青春記 慶長遺欧使節団

 というやつのホン。
 ミュージカルなので、まだ曲作りという大事業がまるまる残っているけれど。

 伊達政宗が、晩年、自腹を切って黒船を作って、ローマまで使節団を送ったことは、有名だが なぜ、そんなことをしたのかは諸説あって定まらない。

 私が最も好きだったのは、スペインと仲良くなって、無敵艦隊を江戸に呼び寄せ、家康から天下を奪おうとしたのだ、という説だった。
 伊達政宗らしく、壮大で、面白いじゃないか。

 とは言え、あまりに荒唐無稽で、面白すぎる。
 太平洋を渡る船の建造だから、莫大な金のかかることで、道楽にしては、ちと度が過ぎるのである。

 しかしその謎に近年新たな学説が加わった。

 震災被害からの復興政策だったんじゃないのか、という説だ。

 実はその船が石巻の浦から、出帆する二年前に、仙台藩の領内で大地震、及び、大津波が起きて、大きな被害を受けているのだ。
 現在の科学的推測で、東日本大震災と同規模のマグニチュードとされている。

 地震学者は、当然昔から知っていた。
 歴史学者も、記録にも残っていることで、知識としてはちゃんと持っていた。

 でも、「津波で小船が山の上まで運ばれた」という記録を、ちょっとオーバーなんじゃないか、盛ってるんじゃないか、と思っていたのだった。
 
 実際に、あの津波に遭うまでは。

 加えて二年後というのも、ピンと来てなかった。
 大津波から二年後の状況がどんなものなのか。

 地震の時期と、出帆の時期とのつながりが、実感を伴なって結びつかなかったのだ。

 しかし、実際に津波から二年たって、現代の被災地の状況を見た時に、
 被災から二年後、その浜辺で、巨大な船を造って、ヨーロッパまで送り出すということが、どんなに規格外のプロジェクトなのか、を実感を伴なって感じ取ったのだ。

 政宗は、大津波で大きな被害を受けた、その場所で、のべ何千人という人間が働かなくては出来上がらない、前代未聞の大仕事をやらせたのだ。当然、雇用を生み、そこに大金を落とした。
 しかも、それは大津波が襲って来たその海、太平洋を津波と逆行して渡りきってやろうじゃないか、という大プロジェクトだ。
 
 そして使節には、まだ誰も開拓していなかった、太平洋横断ルートを使っての、メキシコ及びスペイン、欧州各地との交易を実現させるという使命もあった。
 実現すれば、被災地だった石巻一帯が、大きな貿易港となって、逆に大きく発展したことだろう。
 政宗は、信を置く家臣・支倉常長に、その任務を託していた。

 それが復興政策説である。
 それは歴史の見落としと言えば、見落としであるが

 実際に震災を体験して、そこで仙台の学者さんたちが、ハッと気づいたという
 その発見そのものが、鮮烈なドラマというべき出来事である。

 あの船にはそんな思いが乗せられていたのか!   

 船の名が、サン・ファン・バウティスタ号というので、あたかも外国籍の船のようだけど、スペインの宣教師たちの指導によって、神のご加護を求める名になっただけで
 この船は、あくまでも政宗が考えて、政宗の自腹で造り上げた船なのである。

 つくづく、なぜ、政宗丸と しなかったかと悔やまれる。
 
 ともあれ、
 今回の作品はその新説に依って、政宗の黒船建造と、欧州への使節団派遣を描くものである。
 今まで、そんな視点で描かれた、慶弔遺欧使節団の物語はない。
 たいてい、突飛なる政宗の野望か
 ヨーロッパで洗礼を受けて、キリシタンとなったサムライ、使節の団長・支倉常長の、信仰をめぐる葛藤の物語か。(七年の渡航の果て、帰国した時は、国は鎖国でキリシタン禁止という過酷の運命に見舞われた)

 しかし、今回はずばり、震災と、蘇りがテーマである。 
 四百年前に三陸で起きた震災と、それをとんでもない大仕事で乗り越えようとした、かの地の人々の物語である。
 津波の海に、夢を抱いて、出帆してゆく物語だ。

 それはエンタテイメント作家としては、正直少々、荷の重い仕事で、かつてない緊張感で、取り組んでいる。
 公演は、仙台でもほぼひと月、予定されている。
 四百年前とは言え、地震と津波の話なんだ。いろんな人たちの気持ちを踏みにじりたくない。

 しかし一方で、
 このタイミンクで、こんなテーマに巡り合うことは、滅多にあるものではないと、その運命を噛みしめてもいる。  

 それはまだ誰も、小説にも、ドラマにもしていない、手つかずの物語なのである。

 この後に、たぶんいろんな表現手段で、同じテーマでの
 サン・ファン号の物語が、繰り返し描かれてゆくことになるだろう。

 『ジパング青春記』を、それらの確かな礎となり、道しるべとなり、続くクリエイターたちが、それを新しく描こうとする時、必ず顧みられるような作品にしたいと思う。
 直虎だって、俺、先駆けてやってんからな。
 それも二年前にな。

 そんなことを今、やっています。



  
  
 
  
    

 
  
 








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