紀伊國屋ホールのフロントサイド
昨日は、無謀ナイト だったので、開演前に舞台に立って前説を。
少しでも多くの若者に、見て欲しかったから、自分の席もリリースして、フロントサイドのすスペースから、舞台を見ていた。
ここは全盛期の、つかこうへい が紀伊國屋ホールでの定位置としていた、伝説の場所。
劇場に入ると、前方左右に照明がダーツと並べられている、でっぱりがある。
その上手側である。
そこからの舞台の眺めは、斜めからの見おろしで、下手側はかなり見えないんだけど、
伝説のスポットだからな。
紀伊國屋でやるときは、時々必ず、ここに行くことにしている。
つかさんは、ロビーに立つことはなかったから、うんと前に座れた時に、振り返って見ると、たまーに、その姿を垣間見ることが出来たりしていたものだ。
舞台進行中である。
深くつかこうへいに憧れた、演劇小僧は、劇中であったも、その姿を拝みたくて、振り返り振り返りしていたのだ。
さぞ、邪魔くさいガキだったことだろうよ。
つかこうへい、がいったいどうやって、こんな舞台を作ってるのか、その謎が知りたくて知りたくて、たまらなかったのだ。
つかさんがロビーに立たなかったのは
自分の娘がこれからお客たちに犯される、って時にへらへら玄関先で笑ってられますか!
という理屈であった。
そんだけ真剣勝負なんだ、ってことだった。
劇団を始めて、10年ぐらいはそのスタイルを真似てやって、裏に引っ込んで頑張っていたものよ。
しかし長い活動の中、経済的にも私が全面的に責任を負うことになって、そんな大作家先生的な顔だけでやり通すことは困難となり、
怪しき興行師として、前面に立つことにした。
俺の芝居は娘でなく、息子なんだと、今では思っている。
自分でしっかり闘って、敵の首、獲ってこいや!という精神である。
ところで昨夜
無謀ナイトは、またまた夢のような公演だった。
若いというのは、本当に素晴らしい。
イチイチの反応が違う。
笑い声が元気、拍手の音が、パチパチと弾む。
嫌だねえ、歳とると。
イチイチ、泣き笑いする力がもうない……
笑っても、音にならずに、空気になって、
手を叩いても、パサパサと枯れた音になる。
400人の、見たいと思った、学生たちが集まってくれた。
(ここ大事!学校行事じゃないんだぜ!)
演劇好きとか、何かで奨められた、若い力が、期待をもって、或いは強い好奇心で、全力で、カブリついて見てくれるから、役者も燃えて熱くなる。
昨日までは、コソっと笑ってくれるだけだったところが、ドカーンと爆発的に受けたりするから、役者が驚き、演技細胞が活性化する。
そういう細胞があるんです、本当に。
怒涛の如く、2時間5分が過ぎて
カーテンが下りた時の、嵐のような拍手を聞いて、
私は、サイドフロントで、久々に鳥肌が立ちましたよ。
ああ、こんな空気の中に、あの時、確かに俺はいて。
こんな空気の中で生きる人になりたいと強く願ったのだな、と思い出した。
つかこうへいの秘密の小部屋で。
予言しちゃうけど、残念ながら、昨夜の公演以上の公演は、たぶんない。
今後のお客様には、本当に申し訳ないけど。
違う感動しか生み出せない。
だって、我々がどんなに頑張っても、あのお客さんたちが、集まってくれなくちゃ、ああはならないんだから。
芝居としては、昨夜よりずっと良い出来の日は、必ず来るけど……
せめて、昨夜の境地、状態に少しでも近づくように、と演技細胞を自力で活性化させるのが我々の務めでしょう。
それぐらい特別な公演なんです。
無謀ナイトは。
幻冬舎様の熱烈サポートがあればこそ、実現できている贅沢だし。
扉座ファン、演劇を愛する方たち、皆さまにもぜひ、あの光景をお見せしたい、その中にいて頂きたいと強く思うけど、それも出来ない。
なんという一期一会の奇跡。
昨夜、そんな夢を見せてくれた、学生さんたちに、心からありがとう!
7月2日、厚木でもう一度、チャンスはあるから
見逃したお友達にご紹介してあげて。次は25歳以下、無料の大盤振る舞いだよ。
追伸
劇中のマイクパフォで、幻冬舎様とか、見城様とか、イチイチ言っているのは、何か媚びへつらってんじゃないか、演劇としておかしいんじゃないか、みたいなことをおっしゃる方もいるようですが、
これもねえ、すべて、つかこうへい演出の様式なんですよ。
つかさんがそうしていたから、心を込めて、その型と精神を継承しているのです。
普段の扉座見てくれたら、そこらへんの違いも楽しんでいただけるんだけどね……
まあ、そんな、つか世界さえ知らぬ人が多くなってしまった時代なので、しょうがいなですけど。
しかし、それ以上に、昨夜のような至福を、支えて下さる良きスポンサー様に、誠心誠意のお礼を申し上げるのは当然だよと、私は改めて思いました。