未来に期待する

 生まれて初めての ふぐ は声優の神谷明さんに奢って頂いた。もう30年以上前の話。

 神谷さんがその頃、演劇誌テアトロに掲載された私の初期戯曲を読んでくれて、興味を持ってくださり、連絡を下さったのだ。 六角を主役にしていた ツトムシリーズの『まほうつかいのでし』てやつ。
 その後、更に初期の作品『優しいと言えば僕らはいつもわかりあえた』を、お仲間を集って上演して下さり、そこに岡森も出演させて頂いたりして、以来、私と劇団を贔屓にし、熱い応援をして下さった。正式な劇団後援会会長である。

 で、ある日。横内君、何か食べたいものあったら言いいなよ、食べに行こう。とお誘い下さつた。当時、まだふぐというものを食べたことのなかった私は、ふぐって、食べてみたいっす。と遠慮なくおねだりしたのだった。

 その時の、ひれ酒の香ばしい香りは今も鼻の奥の記憶に残る。

 この時に限らず、神谷さんには、劇団ぐるみで何度もご馳走になった。20人の宴席ぐるっとゴチになったりして。さすがに我々も恐縮はしていたのであるが、ペコペコする我々に神谷さんはこうおっしゃった。

 いいんだよ、僕もそうだったから。先輩たちにいつも奢って貰って来た。先輩にお返しする代わりに君たちに返してる。だから君たちもいつか、後に続く人たちに奢ってあげればいい。そういう時はきっと来るから。

 今も心に刻み付けている。

 そんな神谷さんには、今回『リボンの騎士』の横内ナイトという日の終演後、アフタートークでご登壇いただくことになった。同じく声優の重鎮の伊倉一恵さんと一緒なので、いかにも『映画版シティハンター リメイク』の便乗企画のようだけど、伊倉さんは『歓喜の歌』のボランティアコーラスにも参加して下さったぐらい、扉座を愛して下さっている方で、単なる便乗ではないのである。

 それはともかく。

 その後、若者に期待しない時代が続いたと思う。
 大きな原因は景気が悪かったことだ。
 そして大人たちが意地汚くなり、若者を排除して利をむさぼろうとしてきた。他人事ではなく、私も自分たちのことで精いっぱいで、後進を育てる云々なんてことの出来る余裕がなかった。

 そんな若造に回すぐらいなら、俺がやる。

 といって、場を奪っことさえあると思う。
 おはずかしい。
 
 思えば、私が若者だった頃はバブル前夜から、全盛期で。
 余った金があった。神谷さんはその頃、すでにスターだったから話は違うかもだけど。スターでもないサラリーマンでも接待費が使い放題だったりして、劇団の広告ぐらい十万円ぐらいならいつでも出せるよ、なんていう営業さんとかザラにいた。

 私が初めて戯曲執筆の依頼を受けたのは 旧セゾン劇場 である。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだった西武グループの文化戦略の柱だった。そのオーナーの堤さんが、この新しい劇場では 徹底的に新たなモノに挑む。出来上がった大作家なんかに依頼するな。外れても構わないから、これからの新鋭に期待して、場を与えよ、と号令をかけていた。(このセゾン劇場が、今もお付き合いのある手塚プロとかフジテレビの方々に繋いでくれた)

 だからこそ、私のような新人にそんな大役も回って来たのだった。そして一人前扱いをして下さった。
 一流ホテルのスゥイートルームで、演出家と合い、ルームサービスを取りつつ、ホンの打ち合わせをした。それは『きらら浮世伝』という作品。
 
 先に言った演劇誌テアトロも随分肩入れしてくれた。当時編集者だった小松幹男さんが、私の作品をとても気に入ってくれて、

 とにかく書いたら持ってきて。しばらく載せ続けるから。

 なんて言ってくれて、本当に二年間ほど、書く度に掲載してくれた。その恩も忘れられない。

 厚木では、厚木高校の先輩たちを中心に、文化会館での扉座公演の支援をする市民応援団を立ち上げて頂いた。
 行政や大企業に頼り切らない文化活動やろうぜ、と仲間集めをしてくれて、それがもう二十年近く続いている。その間に、市や文化会館も大きな力となってくれて、
 子供たちの演劇塾『あつぎ舞台アカデミー』もスタートしてもう7年になる。(今回の リボンの騎士 に大役で出演する 加藤萌明 はこのアカデミーに小6から通っていた)

 少なくとも私とこの劇団はたくさんの立派な大人たちに、期待をかけて貰って、場を与えて貰って来たのだ。そしてたぶん、幾つかの大失敗や、無礼無作法に目をつぶって貰って来た。

 それやこれやを思うと、いつまでも時代や景気のせいにしてる場合ではないと思ったんだな。そろそろ本気で、素晴らしい大人たちから貰ったチカラを、次世代につなぐこともしていかきゃ、と。

 多少、無理すりゃチェーン店のふぐぐらい奢れるぐらいにはなったけど、それ以上に、
『若者たちに期待する』というその精神をね。継承しなくちゃね、と。

 未経験な若者たちって、本当に何も知らなくて、危なっかしくて。
 こいつらバカじゃないかと思うことも多々あるんだけど。
 その頃の自分の姿は見えてないからな。その時の大人たちに言わせれば、きっと、お前もその程度だったぞ、ということだろうしな。

 何しろ景気が悪いからね。加えて、これは自分が歳とって分かるんだけど、
 歳とった、本人は、驚くほどその自覚がないんだな。まだ出来る、まだ可能性があるとか思って、ジジイ、ババアをやってる。

 そんなジジイやババアを倒して、のし上がれ!という言葉はある意味若者への叱咤激励として正しいけど、権力や金や名のある大人たちが、そんなこと言って若者を潰しちゃいけない。そういうみっともないジジイやババアもたくさん見て来たから、他山の石としなければと、私は自分に言い聞かせますよ。

 とまあ、そんな気持ちで今回の、チョーーーーーー若返り扉座公演
 『リボンの騎士 県立鷲尾高校演劇部奮闘記』に取り組んでいます。

 時々、腹立たしいほど、下手くそめ、とか思うんだけど。
 自分だって、どこかで人をイラつかせて、ハラハラさせて、チャンスを授けて貰ってきたんだから。その未熟さこそが、可能性なんだと信じて、これが未来に繋がる、と期待をかけ続けるんだと、己に言い聞かせて稽古しました。
 
 この土日、立派な大人たちに支えられて、厚木市文化会館にて開幕。その後、座高円寺で20日から7月1日まで上演します、幸せなことに、若者に期待する立派なお客様方のご声援で、売り切れ日が出ています。ご予約はお早目に!!!

 
 
 


 

 

 
 

 

 
 
 
 

 


 



 

 


 
 

 

 
 


 



 







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