続けててエライ
やんわりと、店じまいに向かう予定だった劇団を 今、慌てて再点火させて、エンジンを回し始めている。
ついこないだまで、この先は惰性で停止まで転がす予定だったから、ガソリン(資金)は足りないし、気持ちの切り替えも大変である。
で、今、いろんな方とお会いしている。
予定通りなら、再来年に劇団活動を辞めます、お世話になりました、というはずだったのに。
いろいろ考えて、この先も当分継続することになりました、宜しくお願いします、と頭を下げて回っている。
その先、十年なんて想定していなかったから、協力者が必要なんだ。
特に、会社のことは、何にも考えて来なかった。それでここまで倒産もせず、やって来られたことが奇跡である。それを奇跡のうちに終わらせようと思っていた。
先方は、突然、何を言い出すのかと思ったら、つまり何も変わらないということじゃないか、とたぶん拍子抜けしておられるが、こちらは一大決心である。
だってもう、これにて退路は断たれた。これはもう、一生やる!と言うようなものだ。
いっとくけど、演劇はやろうと思ってきましたよ。
いつの日からか、芝居とは一生の付き合いになるのだろうと覚悟は決めた。
でも劇団は、そして会社は……人に迷惑を掛ける前に辞めなきゃと思っていた。
単に同志的な集まりだった劇団も、四十年近く続くとね、会社になるんです。というか、会社にされてしまうんです。
税金とか、雇用とか、保険とか、コンプライアンスとか、社会の一部として、果たすべき義務も生じていくのです。
そんなことは苦手だから、芝居者になったのに……
私が社長をやっているのが間違いなのだと、それは今の会社をつくった時から分かっていた。
でも、私が責任者でなかったら、こんなもの、とっくに消えていただろう。
経営とか、安全とかを考えたら、まともな大人ならすぐ気付く、劇団なんてものがいかに不合理なものか。
実際、個人的に約40年間、幾らこの活動にお金を吸い取られて来たか。それを冷静に計算するのはパチンコの収支と同じく恐ろしすぎるので、考えないようにしている。
私に他に仕事の依頼がないなら、それも仕方ないと言えるけど。
せめて、もっと売れてる役者さんたち集めて、もっと高いチケット代で、役者がスタッフ兼任とかしないで、宣伝も広く行き渡る、レベルの高い公演を打てば良いのに。他所の会社には儲けさせるような仕事をあなたは幾つもやって来たのだから。
人気のある役者さんを、貸してくれる事務所だってたくさんあるでしょ。ここまでのキャリアがあれば。
今まで何人の見識ある方々から、そう言われてきたことか。
その度に、その通りだな、と思う。
最近、以前に大劇場や、人気者たちの為に書き下した戯曲を劇団で上演したりしている。
劇団でも充分に上演できるものなのだ。
他所に書くのも、劇団に書くのも、私にとって実はそんなに違いはないのだ。
劇団にしかできないことがある、と言いたいけど。果たしてそうなのか、今となっては正直、疑問である。そもそも私の台本は、フツーに読んで理解可能なもので、特別な演技法とか、まったく必要としない傾向のものだからね。
なのになんで、今、もう一度続けようなんて決意しているのか。
その答えが分からない。スタッフ、劇団員の為にも、という気持ちはあるにはあるけど、それだけでこの不合理な活動を続けるほど、私は人の為に生きる人間じゃない。
やろうと思ったんだな。私は自分で。
言い訳はできない。自分で決めたんだ。
それが何故かは、まだ答えがないけれど。
敬愛する、つかこうへいさんがかつて『前進か死か』といって、活動していて。
カッコイイなと憧れて。
でも、つか事務所は結構早く、解散とかして。
俺にはとてもそんな覚悟は出来ないと、ずっと思ってたけど。
気が付けば、つかこうへい事務所の活動歴も遥かに超えて活動してて。
リアルに、前進か死か、の境地に来てて。
もちろん、問題は長さではなく、深さだと、分かっちゃいるけれど。
その、つかさんが、生前言ってたと、人伝に聞いた。
横内は劇団を続けていて、エライ、と。
偉いことなのか?
偉いことなんだよ、つかさんがそう仰ったんだから。
今のところ、その言葉が支えである。
そして、なぜなのか、その答え探しの長い旅がまた始まる。