錦糸町と扉座 不死鳥少年 を巡って 

 3月9日付のFacebookにも長く書いたのだけど。(※kensuke yokouchi で検索してください。漢字表記の方は廃墟です)石田衣良さんの新作『不死鳥少年』に、思うところ多々であった。

 東京大空襲を受ける錦糸町が舞台の小説。
 今、扉座の稽古場がある、街。

 旧本所区と呼ばれた、この下町一帯は、大正では大震災。昭和で大空襲と。二度、焼け野原になっている。
 一帯が定規で線を引いたようなきっちりとした碁盤の目区画になっているのも、五〇年間で二度町が消滅して、直線を引きしやすかったかららしい。
 大空襲では、本所区だけで確実に七万人以上がなくなったと言う、区民の半分。しかも成人男性の多くは兵隊にとられて、不在だったから、老人や女性と子供が多かった。戦闘能力のない一般人が狙われたのだ。

 小説の主人公は、父がアメリカ人の14歳の少年。日系人が居にくくなったシアトルから、国際結婚した日本人の母と二人、錦糸町に帰って来ていた。
 差別など受けつつも、日本の軍国少年として元気に学徒動員に励んでいるのだが、空襲に遭う。父の国の無差別爆撃を受け、母を守って火の海の中を逃げ惑うのである。
 細かくは、小説を読んで貰うことにして。

 大震災も、大空襲も慰霊の碑などが稽古場の近隣に点在している。おぼろげに知ってはいたが、改めて小説として読むと、今もある地名などが現れる度、ああ、ここが焼き尽くされたのかと、肌感覚で実感する。

 そろそろ戦争を知らぬ世代が、書くべきだと思ったと執筆の動機を作者は語っている。若い世代に向けてメッセージされた本だ。でも私のような同世代の者にとっても、書かれる必要のあった作品だと思う。

 23年前、縁あって錦糸町の倉庫会社の社長さんと出会った。社長は、演劇スタジオというものに興味を持っておられて、私は演劇人の立場から様々ご説明をさせて頂き、そこから、すみだパークスタジオがスタートしている。
 社長は先年亡くなられたが、今はご子息たちが御遺志を受け継いで、倉庫業ともにスタジオもビジネスとして立派に運営なさっている。現社長は地域への貢献も含めて、地元のフットサルチームのために、素晴らしい練習場も提供されたりしている。
 今やスミダの文化拠点である。

 演劇人で知らぬ人はいないし、タクシーも、スタジオに、の一言で行ってくれるようになった。
 扉座はそこに23年前から稽古場と倉庫をお借りして、活動拠点としている。

 この土地には、そんな歴史があって、我々は日々、芝居作りとレッスンに励んでいるのである。
 演じ踊る、我々の足元に、大勢の人たちの魂が眠っている。

 とはいえ。
 そんなことをいつも考えていたのでは、先に進めない。錦糸公園で花見をする時には、そこが夥しい焼死体の安置場所だったということも、ひと時忘れて。今、生きていることを祝福して、今年も立派に咲いてくれた花と、春に感謝して乾杯したい。
 その場所を恐れ、忌避するばかりでは、死者たちも浮かばれまい。その場所に集って、底抜けの幸せの光景を、死者たちに見せるのも、今ここに生きている者たちの務めだと、私は思う。

 人は忘れてゆくものなのだ。
 忘れなきゃ、やりきれないこともたくさんあるだろう。

 だからこそ、人間は何かの出来事を、それは喜びでも悲しみでも。忘れ去られてゆく出来事や、薄れてゆく思いを。
 そこに人間の魂を込めると言うやり方で、芝居や小説、アートや音楽という美しい創造物に創り変え、悲惨なこの世に残す必要があるのである。

 流されて行く歴史の流れに、小舟を浮かべるようにして。

 小説の中で、少年はいとこの女の子と、映画を見に行く。初めてのデートである。
 場所は、楽天地。その名は今現在もあり、間もなくビルは錦糸町PARCO としてリニューアルオープンする。
 古くからの娯楽場だったらしい。
 だがその時は、戦意高揚のための、プロパガンダ映画しかなくて、ガッカリして結局映画を諦めて、ふたりは錦糸公園で話す、来ないかもしれない未来の夢を語り合う。

 恋や冒険の映画が観たい。夢のようなファンタジーが観たい。

 私と扉座は、この場所で、そんな少年少女たちが、いつか観たいと願ったような物語を創り続けてゆきたいと思う。
 そこは我らが最も得意とするところだ。もちろん、今我々とともに生きている人たちの為に創ってゆくんだけど。たぶん稽古場を覗きに来ている、それらの魂たちのためにも。その胸に響くように。
 
 そして時が来たら、石田衣良さんのような仕事も劇団でやりたいとも思う。戦争を知らない私たちが、次の世代に語り継ぐべきことを、どう描くかにチャレンジして。

 そんな、すみだパークスタジオと扉座で、この春から、大人の演劇塾をスタートさせる。資格は50歳以上の方々、経験不問。
 劇団扉座・俳優養成所 扉座サテライトの大人版である。
 名付けて すみだパーク演劇部 はもう少し緩く、そして、すみだパークと共同で運営することで、地域貢献、地域連携を深めてゆく。

 募集などの詳細は、扉座HPを見て欲しい。

 これにて、扉座が関連するアカデミーがほぼ、全世代を網羅した。


〇厚木市文化会館とともに開いている、厚木ぶたいアカデミー
 小4~中2。(月末に、中二の卒業式&春の発表会 新規生も募集!)

〇神奈川県とともにやっている、マグカルパフォーミングアーツ・アカデミー
 高校生~26歳。(応募時の年齢  今年も募集有ります!)

〇劇団扉座・俳優養成所 高校卒業~ (※まだ間に合う、来年度生募集中!扉座座員になるには、まずココ!)

〇すみだパーク演劇部 50歳~ (※間もなく締め切り!急いで)

 扉座は、ランドセルから、無限まで!!!!

 昭和の大戦の時がそうだった。
 世の中がヤバくなると、真っ先に、ドラマやアートが消し去られる。
 
 我らが、芝居をやり続ける。それが平和だ。


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