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R36連続対談 
第3回
横内謙介×千葉雅子

8人の作家陣の中では、わりと異彩を放つ千葉雅子。作・演出をつとめる劇団「猫のホテル」では、人の「バカ哀しい」宿命が舞台上でぐるぐると渦巻いていく。そしてもうひとつ、座付き作家をつとめる劇団「身も心も」の最新作で千葉は、バスタオル姿で風呂場でワニをねじ伏せていた。――なんてことはもう遠い過去のことみたいに、この日はさわやかなショートヘアで現れた彼女。その横顔を見つめながら、横内が引き出したかったのは、いったい……?

取材・文 小川志津子

Photo 対談:千葉雅子&横内謙介

横内 扉座と猫ホテは、ほとんど接点はなかったんだよね。あるプロデュース公演で、僕の『新羅生門』を松村武(カムカムミニキーナ)くんが翻案した『鬼』(2001)っていうお芝居があって、そのときに猫ホテの菅原永二と森田ガンツが参加してたのね。じゃあ、この公演に参加してる若者たちの、所属劇団をひととおり観てやろう!と思って、観に行ったのが一番最初。

千葉 その節はありがとうございました。

横内 そうやって若い劇団を観てまわってると、「僕らとは感覚が違うんだな」って思うことが多かったのね。でも猫ホテさんは、文体とか空間の飛び方とかが、すんなり腑に落ちた。デジタルじゃなくて、もっと粘着質にからみあってるというかさ。そして何より、千葉さんっておっかしな人だなあ!と思って。ただならぬ狂気が漂っててさ。長塚圭史の芝居でも、そうだったよね。いきなり万引きするおばさん。

千葉 ああ、『十字架』ですね(2002年、阿佐ヶ谷スパイダース公演)。

横内 家に帰る途中で薬局に立ち寄って、当然のように万引きしていくんだよね(笑)。ああいう役を、ヒステリックに走るんじゃなく、ちゃんとリアリティ持って演じられる女優さんって、なかなかいないと思う。

千葉 いや、コンプレックスのカタマリなんです私は。あんな芝居もできない、こんな役も苦手……っていう中で、「これならすんなりできる」っていう数少ない道を探すと、アウトローだったり犯罪者まがいだったり流れ者だったり、だいたいこの3パターンしかないんですね(笑)。

Photo:千葉雅子

横内 少女時代には、お姫さま願望とか、なかったの?

千葉 嫌いでしたね。おとぎ話とか、ドリーミーなものは苦手でした。「王子さまだぁ!? はっ! 馬鹿馬鹿しっ!」みたいな。

横内 それは、自分がやるのが恥ずかしいからなの? それとも、ただ生理に合わない感じ?

千葉 ひねくれてたんでしょうね。楽しく見えなかったんですよ。あの、ぴらぴら感が。

横内 いつか思春期を迎えて、初めての恋をしても、その気持ちには変わりはなかった?

千葉 ……ぐいぐいつっこんできますね(笑)。

横内 普通の演劇誌ではなかなか聞かないことをね(笑)。

千葉 いやあ、でも、あまり変わらなかったと思いますよ。ディズニーランドとか、ほんと苦手で。楽しかった思い出が、ほとんどないんですよ。今行けば、また違う楽しみ方があるんでしょうけど。

横内 男性と行ったことある?

千葉 ありますあります、なんか、見合いみたいな感じで行きました。

横内 どんな見合いだよ!?(笑)

千葉 OL時代、先輩に「いい人いるから!」って紹介されて。会って2回めぐらいに、ふたりっきりでディズニーランドへ。(心が)解放された感じには全然ならなくて、すっごいムシャクシャした。

横内 「いつかこのことをネタにしてやる!」とかは、思ってた?

千葉 当時はそこまで客観的ではなかったですけど、考えてみたらいいネタですね。行っといてよかったかも(笑)。

Photo 対談:千葉雅子&横内謙介

二足のわらじに癒された

横内 この前、マキノさんの芝居を一緒に見に行って。飲み屋でマキノさんを待ちながら、千葉さんの演劇の原体験を聞いたんだけど、腰が抜けそうになったんですよ。「小さい頃、商業演劇で見たフランキー堺です」って。

千葉 はい。たぶん小学生だったと思います。

横内 今の猫ホテの立ち位置からすると、もっとインテリ系だったり、アート寄りなのかと思ってたからさ。まさか商業演劇が生んだ才能だったとは、思わなかった。

千葉 いやいやいや、猫ホテは十分ベタですよ?

横内 でも、なんか軽いショックでさ。そう考えると、ひょっとしたら千葉さんの本質は、まだ出きってないのかな? と思うわけ。もっとお茶の間に入り込んでいける、ベタでラクな居場所があるんじゃないかと。下北沢よりも日比谷とかさ、むしろ浅草とか、あのあたり。

千葉 あー。小さい頃までさかのぼると、原点は商業演劇だったり、落語だったりしますけど、でも大学1年のときに演劇研究会に無理矢理誘われて、その流れで観に行ったのが「東京乾電池」さんだったんですね。それでわりと、小劇場にはすんなりと入っていけた感じで。

横内 一度、お芝居辞めて就職してるんだよね?

千葉 ええ、大学卒業を機に。OL生活も、好きだったんですよ。二足のわらじも心地よかった。稽古で傷ついた心が会社で癒され。会社で傷ついた心は稽古で癒され。

横内 へえ。会社で癒されるってこともあるんだ。

千葉 そこにいる人種が違いますからね。アーティスト気質の人たちとぶつかりあったあと、会社へ戻ると、地に足の着いた人たちが、普通〜に世間話をしていて。

横内 どっちが、自分の居場所だったの?

千葉 その頃は、決めかねてましたね。両方とも、私の居場所だと思っていたので。でもどちらかに絞らざるを得ないってなったときに、やっぱり芝居がやりたいんだ、って腹をくくれたんです。

横内 それは、女優として浴びるスポットライトに呼び戻されたの? それとも、表現したいっていう気持ち?

千葉 後者ですね。前者ももちろん、なくはないけど。作・演出として、劇団で芝居を作りたいと。OL時代に迷ったぶん、行きたい方向はハッキリしてましたね。

横内 作風も?

千葉 はい。

横内 ああいう世界観というのは、どこから来てるものなの?

千葉 単純に、ひねくれ者なんですよ。幸か不幸か、女子校生活が長くて、それがいきなりポン!と開放されて、そのギャップが生みだしたものじゃないかと(笑)。ほんと、一筋縄な青春時代ではなかったんです。家庭でもいろいろと、すったもんだしたりとか。今の自分は、そういう所から来てるのかもしれないなあって、ここまで来て思うことしきり、ですね。

猫のホテル公演『苦労人』(再々演) 猫のホテル公演『苦労人』(再々演)/2007年4月 シアタートラム 撮影:引地信彦

ちゃんと、甘えていますか?

横内 千葉さんって、実は世代的には僕らと同じくらいじゃない? よく一緒に組んでる河原(雅彦)くんや長塚(圭史)くんというのは、どっちかというと弟世代だよね。

千葉 そうですね。

横内 僕は最近になって、マキノ(ノゾミ)さんや鈴木聡さんとよく話すんだけど、「千葉雅子さんもこっち来ればいいのに」って思ったりするよ。だって観てきた芝居なんかは一緒だろうし、落語が好きなんだったら聡さんと話が合うと思うんだよな。いつも弟たちを相手に「お姉さん」やってる千葉さんがさ、ちょっと肩の力ぬいて、弱みをさらけ出せる場所が、あっていいと思う。

千葉 甘えてしまうかもしれませんね(笑)。

横内 いいと思う。だって、「もぉ、つらいのよー!!」とかって、彼らに愚痴をまき散らしたりはしないでしょう?

千葉 しませんね。そもそも弟くんたちに対しては「ですます」口調です。

横内 僕も、「大変だあ!」とかってあんまり言いたくないんですよ。そういうところは、極力、人に見せたくない。

千葉 横内さんって、あわてふためくこと、あります?

横内 あるある。人知れず、こっそりと(笑)。千葉さんは?

千葉 ありますよ。でも、知人が誰もいなさそうな、喫茶店とかであわてふためいてます(笑)。

横内 今回の執筆ぐあいは、どうなんでしょう。

千葉 お、来ましたね(笑)。今回の顔ぶれを見ていると、たぶん美しい話とか深みのある話が、いっぱい来そうな気がするんですね。その、すき間産業をさぐりたいなと思っていて。

横内 いいですねぇ! 大いに、異彩を放ってほしいよ。付き合いの長い作家が多い中に、千葉さんが入ってくれたことで、何か新しい地平につながっていけそうな気がしてるんですよ僕は。お互いにね。

千葉 そうなれたらうれしいですね。今まではわりと慣れ親しんだ人たちにホンを書くことが多かったんで、こんなふうに、方法論がまったく違う役者さんたちにやってもらえるのが、私もすごく楽しみで。これを気に、横内さんたちの背中を見ながら、走っていきたいですね。

横内 いやいやいや、こっちだって、僕はときどき千葉さんに見とれることがあるんですよ。

千葉 ……え??

横内 だって、実はすごくビジンじゃない? 舞台じゃわざと隠してる……というかむしろ笑いを取りに行ってる感じだけどさ(笑)、実はものすごく綺麗な人だと思うんだよなあ。

千葉 ……(リアクションに困っている)。

横内 普通にヒロイン役とか、おやりになればいいのに。人からも、そう言われたりしない?

千葉 ……相当答えづらい質問ですよねそれは。「ええ、よく言われますぅ」とは、普通なかなか(笑)。

Photo 対談:千葉雅子&横内謙介

“引き出し”のありか

横内 作品にちなんで、「LOVE」について思うところを聞かせていただけますか。

千葉 「LOVE」……。まず私の中では、「恋」ではなくて「愛」ですかね。行きずりで終わる「恋」ではなくて、長く継続せざるを得ない「愛」。愚かしかったり、みっともなかったりしながら、嘘のない愛がいいなと思います。カッコつけない、ダメ〜な感じの。

横内 お姫さま嫌いの千葉さんとしては、どういうときに恋に落ちがちなの?

千葉 私ですか!? えーと……心の距離が、すんなり縮まる瞬間、ですかね。特に言葉を交わさなくても、ほんのひと言で、理解が深まる瞬間ってあるじゃないですか。言葉や行為を限定しない、何か、一瞬。

横内 それは、出会い頭なんですか。それとも、長いつきあいの中で、一瞬で逆転したりとか?

千葉 逆転、もあるかな。

横内 でもそれは演劇の現場ではないでしょ?

千葉 え!?……いや、「恋愛」とまではいかない愛情は、役者たちには抱いてますけど。

横内 それはもう、「母」な感じ?

千葉 最近は比較的、「母」な感じですね。長く一緒にいると、やっぱりそんな気持ちになっちゃいます。横内さんはどうなんですか?

横内 うちは、常に同じメンバー(で芝居をしているわけ)ではないから。古いメンバーもいるけど、2年ぐらい会ってない奴もいるし、新しい奴も入ってくるし。見覚えのない子供を持ってる父親の気分です。

千葉 あー。私は、人を育てるってことに長けてないんですよね。だからうちの(劇団の)目下の課題は、「いかに足並みを揃えていくか」ってところなんですけど。

横内 作家としての課題は、どうなの?

千葉 ありますよ。いい作品、残る作品を1本、作らねばという悲願が。

横内 「残る」というのは、作品として? それとも、猫ホテのレパートリーとして?

千葉 「猫ホテのコレが観たい」って、何年も言われ続けるような作品を。そういう手ごたえを、私はまだつかんでいなくて。

横内 それはね、きっと、千葉さんの中で開いてない引き出しが、どこかにいっぱいあるんですよ。今まで避けてきたことや、劇団のスタイルとかイメージとかこだわりなんかをとっぱらったところに、その引き出しはあるように思う。

千葉 はあ……(聞き入る)。

横内 マキノノゾミさんてね、最初会った頃は無邪気に西部劇とか冒険活劇なんかをやりたい放題でやってたわけ。でもある時点でふと“普遍的な物語”っていう境地にたどりついたんだよね。それが『KANOKO』だったり『MOTHER』だったり『東京原子核クラブ』だったり。鈴木聡さんも、昔は絶対手を出さなかった社会的なテーマに斬り込んで、『あしたのニュース』(2004年、紀伊國屋演劇賞受賞)が生まれたわけでさ。

千葉 (さらに聞き入る)

横内 野田秀樹もつかこうへいも唐十郎も、スタイルは全然違うじゃない? でもたぶん、わかりあえる共通言語みたいなものが、彼らの間にはあると思うんだな。流行りとか風俗なんかより、もっとずっと根っこの部分でつながってるというかさ。だから千葉さんも間もなく、そういうところにたどりつけるんだと思います。「お姫さまモノは恥ずかしい」みたいな羞恥心を超えた、物語の本質、根幹、みたいな境地に。そういうときに、流行を超えた作家の代表作というのは生まれるんだと思う。

千葉 ああ、まさに最近、自分の世界をもっと広げなきゃいけないって痛感してたところだったんですよ。何も見えないところを歩きながら、悶々としてたところだったんですが、今のお話でちょっと、ここから先の景色が明確に広がりましたね。

横内 でしょ。わりといいんですよ、作家同士で話すというのも。ぜひ千葉さんも、我々の一味に加わってください(笑)。

Photo 対談:千葉雅子&横内謙介
 

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