ガン平さんに対する、心配

 2度目の利楽入りして以来、一歩も、利楽地帯、半径約三百メートル四方から踏み出していない。

 寝泊まりも、メシも息抜きも、仕事場も全部、敷地内なので、出る理由がないのである。

 んで
 出たところで、特別の足がない限り、どこにも行けない。

 隣りの松山刑務所生活と、どう違うんや。

 もし所内に、更正的演劇活動があるなら、ほぼ同じといえるかもしれない。
 もっとも当然のことながら、所内で、こんなたいした舞台は作れないだろうが。

 2週間前なんだが、すでに劇場に入って、本番のセット、音響、照明で稽古している。
 ついいつもの貧乏癖で、劇場に入るとアセアセしてしまうが、
 かなりのことをやり残しても、まだまだ劇場で粘り、練り直しの出来る状態だ。

 こんな贅沢なことはない。
 ゲーム少年が部屋引きこもって、ずーーーーーっとゲームやってるように、我らは利楽に引きこもり、舞台創りをやってるわけだ。

 で、そんな引きこもりの結果
 いろんなところが目に見えるようになってきて、角館製セットも、愛媛の明かりを浴びてますます輝き、
 我らと周囲の期待は高まってきている。

 ただ昨夜、ぼっちゃん劇場レギュラーの若手と話していて、
 たとえば松山市内の繁華街で、ガンちゃんとか男性独身キャストが、居酒屋で女子大生たちの一群と出会って、
 
 わしら、坊ちゃん劇場『幕末ガール』出演中ぞな、と打ち明けた場合、どうなるんだね、と訊ねたところ、

 たぶんスルーでしょう、と言うことだった。

 愛媛のいろんなところに、ポスターはあるんだけどな。

 学校鑑賞以外の若者は、あんま、来ませんからね、って。

 それじゃ困るんだよ。
 ガンちゃんは、この一年で、嫁をみつけて来る予定なんだし。

 ガンちゃんが『アトム』で角館に滞在した時も、地ビール飲み尽くしの次の目標には、嫁取りという大目標はあったが、地ビールが安く旨すぎた上に、呑む端から製造されて無尽蔵だったのと、
 角館では、わらび座内以外、若い女子がいないのとで、嫁取りの方はまったく進行しなかった。

 わらび座女子部員でいいじゃないかと、われらギャラリーは考えたし、
 わらび座の関係者も、東京に連れて帰らなければ、いいすよっと言ってたし、
 何より、面白くて芝居の達者な人として、認められて、それなりに期待は膨らんだのだ。

 けど、わらび座・女子たちが、毎日続くというか、エスカレートしてゆく地ビールへの、あまりの執着ぶりに呆れ

 ガンさんの演技は好きだけど、あの飲み方はちょっと、
 と
 あっと言う間に潮が引いていったのだった。

 ま今回も、彼の中のなかの嫁取りは、たぶん愛媛酒の次にランクされているだろう。

 で、飲み出したら、たちまち寂しさも霧散して、天下を執った気分になるのだろう。
 で、深い酒の夢の中で、幻想の女たちとハーレムだか大奥だかを形成して、幸福感に包まれるのであろうが
 
 それはアルコールで、脳が溶けてるだけなんだよ、

 と、優しく彼の肩を叩いて、
 今夜もたくさん呑んだから、そろそろ切り上げて、ちゃんと寝ようね
 と言ってくれる女の子が、必要だとわしは思うのである。

 なにしろ、
 ここに来て、わしはガンちゃんと一回もメシを食っていないのだ。
 終わるといつもサーッと消えてゆく。
 今回、彼は、村近くのアパートに、他の男性出演者たちとルームシェアの生活をしている。

 で聞けば、ここに来て以来、毎晩欠かさず、そのリビングで交流会を開催しているのだそうだ。
 そしてそのメンバーは、常にそこで生活する、男子4人なんだそうだ。

 それは交流会とは言わないのよ、

 と優しく肩を叩きながら、教えてあげてくれる誰かが欲しい。
 

 

 まずは『幕末ガール』に若者をちゃんと集めよう。
 
 有名にさえなってしまえば

 ギャンブル依存も、借金も、離婚3回も、許されるどころか売りにさえなってしまうというお手本が、
 我が扉座には、あるからね。
 



 
 
 

 
 
  
 


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