そして円形劇場も
こどもの城が閉館するんだそうな。
青山劇場も、円形劇場も閉館なんだろうか。
まあ、厚生年金会館はほぼ全部、売却か取り壊しになったから、厚生年金がらみの、ここも無事では済まぬとずっと噂されていたけど。
税金の無駄遣いはイカンし、仕分けもやるべきと思う。
けどなあ、とため息を付くのはワシだけか。
劇場ってのは単なる施設ではなく、そこに関わる芝居者と観客の、たくさんの記憶が重なって、雰囲気とか、味わいが出てくるのだと思っている。
紀伊國屋ホールを観てみるといい。
あんなに古びて、使い勝手もよくないし、今となっては決して見やすいわけでもないけど、
壁とか床とか、空間に染みついた、笑い声や感嘆や、涙が、
芝居をそっと支えているじゃないか。
あの狭い楽屋、汚い場所。
しかしそこに、つかこうへいや井上ひさしの、あるいは、昭和を彩る名優たちの、つかの間暮らした痕跡が確かに残されていて
そこに踏み入ることで、自分が芝居者になったと、しみじみ思えるような場所だ。
しかもそこが博物館ではなく、生きている者が、生きている者相手に、生きた肉体と感情を見せ物にする、生きた場所なんだ。
良い劇場には毎夜、まあ昼間も、たくさんの幽霊たちというか、精霊たちがあつまって、観客と共に舞台を観ている、と私は思っている。
幽霊たちは、そこに生きている人間たちを確かめに来る。
時に案じ、時に憧れ、懐かしがり……
客席や舞台に幽霊が出て、幽霊が芝居に泣いて、笑って、劇場は本当の劇場になる、と私は思っている。
幽霊というか、お能の、幻しみたいなモノたちな。
それがたかだか十数年ぐらいで、役目を終えたということはないだろう。
むしろ、これから精霊の棲みやすい場所に変わっていったんじゃなかろうか。
造るのにも凄くお金がかかったけど、維持はさらに大変で、
辞める方がきっと簡単なんだろう。
でもそこで辞めたら、本当の無駄遣いだ。
劇場は生き物なんだから、正しくケアすれば、ふるびつつ、さらに良く育ってゆく場所なのに。
長く使い込んで、ビンテージとなって値打ちのでる、靴やカバンを、育成途中で捨てる愚行だよ、これは。
いろいろ無駄は辞めるけど、劇場は残す、遊び場も残す。
いらん役人たちの天下りの場、ポストだけ取り上げる、と言えないのかね。
ま、そんな見識があったら、そもそも門外漢の厚生省が劇場を造って運営するなんて、最初の愚行は生まれなかったろうけどな。
ただただ。我が国の文化程度の低さの露呈である。
誰か、買い取ってくれ。