夜回らず先生

 まずは『うたかたのオペラ』に対する、マキノ先生の発言に、おおココも被るかと、驚きつつ、その造詣の深さと熱さに、敬意を表する。その上で、更に しっかりやろうと、自戒を致した私であった。

 さて話題は大きく変わり

 これは今日というか正確には昨日の夕刻4時過ぎに、見たまま、聞いたままのこと。

 稽古場で『百鬼丸』の新キャスト座内オーディションを済ませた私は、錦糸町から、表参道に向けて、地下鉄に乗った。
 その車両に押上からすでに乗っていた、女子高校生二人。

 優先席に、大きく足を開き、二人がけ。
 昔風に言うならコギャル。今はさて、なんて呼ぶのか。
 
 幼い顔に厚化粧。
 
 そんな二人の斜め前に座った私に聞こえてきた言葉。

 「頻尿でまんこ痛ぇ」
 「あたしも、昨日、上になってヤッて、まんこヒリヒリする」
 「でも上って、なんか恥ずかしくねえ?」

 周りには私も含めて、オジサン、オバサンが数名。
 たぶんみんなの耳にはっきり聞こえた。

 それから二人は、鏡を取り出し、それぞれに化粧を始めて、会話は中断。

 その後、徐々に人が乗ってきたが、二人の姿勢は変わることなく、足を開いて二人がけのまま、私が降りる表参道まで化粧は続いた。

 「やべえ、渋谷着いちゃうよ」

 なんて言い合いつつ。

 オジサン、オバサンはただ無言であった。
 でもたぶん、心の中でいろんなことを考えていた。

 こいつらこの後、何言い出すんだ、というドキドキと、
 そもそもこいつら、どうなってるんだ、というハラハラと。

 親は、先生は何やってるんだ。
 そんなもの、とっくに見放されてるんだろう。

 第一、そんなに気になるなら、お前が、何か言ってやれ。
 夜回り先生みたいに、あいつらに声をかけてやれ。
 そんな声が、どこからか聞こえてくる。

 でも、
 もちろん、動かない。
  
 だって、動いていったい何を言うんだ?

 「君たち、公の場で、まんこ なんて言ってはいけない」
 「は?キモイんだけど」
 「公の場で、そんなこと言うのは、騎乗位のセックスより、ずっとずっと恥ずかしいことなんだよ」

 危険領域にいる他者に関係するということは、自分も危険領域に踏み入ることだ。

 たまたま乗り合わせた地下鉄で、そんな冒険をやる必要はないのだ。フツーは。

 だから
 オジサンもオバサンも黙る。

 でもこの胸の奥に起きるさざ波は何だ。
 
 無視したくても、気になって仕方ない。
 エロい妄想なんかかけらも起きない。
 これでいいのか、という、自問自答。
 何で、こんな世の中になっているんだ。 

 私は、自分が罰されているような気がした。
 
 これは紛れもなく、私たち大人が作り出した、今というリアルな世界の申し子たちなのだ。

 そして彼女たちには、昔の不良のような、大人たちを困らせようと言う確信的な悪気なんかない。
 
 どこまでも無邪気だ。赤ん坊が、うんこを握って遊ぶように、まんこのことを語っているのだ。

 でも
 その無邪気こそが、あまりにも胸に痛い。

 だっていつか本当に罰されるのは、彼女たちなんだから。
 傷だらけで、血を流すのは、私たちではない。

 頻尿でそこが痛い って。

 それは、何か深刻なトラブルがすでに君のカラダに起きている予兆なんじゃないのか。

 今から、渋谷に行って、そこにいったい何があるのか知らないけれど。

 今更止めてもダメだろうな。

 だったらせめて、
 誰でもいいから、
 本気で誰か、

 抱きしめてやってくれ。

 抱くんじゃなくて。

 暴れても、離さず、しっかり抱きしめてやってくれ。

 そう願う。



  
 
 

 
 
 


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