うたかたのオペラ

 6月の末に松竹座でやる、

 『うたかたのオペラ』 という、催しの宣伝のために大阪に。
 『女ねずみ小僧』の時、出演していた、紫吹淳さんと、川崎麻世さんがメインで出演する。

 でも実は、この舞台の何よりの大黒柱は、
 加藤和彦さんの20年前の、連作アルバムである。

 特に舞台の表題にもなった『うたかたのオペラ』というタイトルのアルバムが、私は大好きだった。

 子供時代大好きだった『帰ってきたヨツパライ』の頃はともかく、その後、特に加藤ファンだったワケではない。
 それが、このアルバムの発表の頃、ラジオか何かで、その断片を耳にして、たちまち気になって、ソッコーで買ったと記憶している。

 とにかく、一度聞いて、忘れられなくなった。 
 すでに芝居は始めていたから、たぶん、舞台で使えると直感したのだと思う。
 
 当時まだ分断されていたベルリンがテーマで、全体として、架空の物語が、綴られているような構成で、それでいて、一曲一曲は独立した、楽曲で。

 加藤さんの曲は今聴いても斬新だし、安井かずみさんの詩が、これまた圧倒的にドラマチックだった。
 そのまま映画のワシシーンを切り取ったみたいな、インスピレーションを刺激する曲なのだ。

 そんな詩を書く作詞家には、もう一人、阿久悠という人がいて、実際、二人共にジュリーの、極めて演劇性の高い感じの、歌詞を書いている。
 でも、阿久悠が良くも悪くも、計算的であるのに対して、安井かずみは、感覚的で、どうとも解釈できる重層性と、歌謡曲には実はあまりそぐわない、
 危険なエロティズムと、隠微な退廃が漂っている。
 と私は今も感じている。

 だから、阿久悠の方が、ヒットしたのだ。
 同じジュリーの歌でも
 安井かずみ 作詞の
 『追憶』のエッチ臭さを味わって欲しい。

 にしても、そもそもニーナって誰なのよ?

 阿久悠の『カサブランカ・ダンディ』に出てくる ボギーは 分かる人にはちゃんと分かるけど
 安井かずみの ニーナ は 謎でしょ。
 そういう独自のアングルの世界なんだな。 
 
 それはともかく、
 安井かずみは、歌謡曲には収まりきらなかったそういう部分を、
 加藤さんとの仕事では、全開にして表現し尽くしている。
 まあ、ご夫婦でしたからね。

 ずっと
 カッコいいなと思っていた。
 それこそ清志郎の歌みたいに
 何度も、自分の芝居に使おうとしたものだ。

 でも、
 聞き込むほどに、

 その世界観が、あまりにオシャレで大人で、当時の青い私の芝居には、まったく合わないことに気づいた。
 まだ絶叫が心地よかった時代だ。

 いっぽう、加藤・安井ワールドは東京で一番、知的でハイセンスなムード満載で、まだ今のようになる前の、隠れ家的西麻布の文化そのものだった。

 当時の西麻布と下北沢は、まったく別の世界だったもんだ。流れる曲も、集まる人も。
 
 もっとも実は、西麻布的にも『うたかたのオペラ』はちと早過ぎたらしい。
 加藤さん曰く、当時、一部の好事家には熱狂的にウケたけど、大衆受けはしなかったらしい。
 数年前に出た、復刻版の方が、反響が大きかったとか。

 だって『ベル・エキセントリック』なんか、エピローグに坂本龍一の弾く、エリック・サティ が小さなクレジットでポイっと入ってるんですからね。
 
 「あの頃は、坂本君もまだ暇だったんだよ」
 と 
 あの声で、加藤さんは言っていた。

 で、過日
 加藤さんから、音楽中心のレビューみたいな舞台を一つ出来ないかと、人から頼まれているんだが、何かアイデアある?
 と訊ねられた時、

 真っ先に思い浮かんだのが、ずっと暖め続けてきたその思いで。

 とにかく『うたかたのオペラ』のスゴサについて、ひとしきり語り、
 これを繋げただけで世界は完成しますと、口から泡を飛ばしたら、

 プロデューサーも乗って
 やってみようという話になった。

 『うたかたのオペラ』『ベル・エキセントリック』『ボレロ・カリフォルニア』など
 そこらの一連の、アルバムの曲をチョイスして構成し、全体を通すストーリーを作り上げる。
 レビューショウのようなミュージカルのような。

 今度のはそんな舞台になる。
 まあ、今度また、詳細は語る。
 
 ところで、
 加藤和彦さんとは、スーパー歌舞伎のスタッフとして、共に猿之助さんの下で働いてきた仲である。

 私としては、実は、その好事家的の一人だったので、お会いする折々、そこらのファン話を小出しにはしていたものの、
 何しろ、スーパー歌舞伎の現場は大変で、取りかかりだすと、関係ない雑談とか、やっていられる雰囲気ではなかったのだった。

 それに、
 台本にも、音楽にも、細かくしつこく注文を出すのが猿之助で、
 我々はいつも、大変な目に遭っていたので、
 励まし合うのが精一杯の状況だった。

 だから
 加藤さんと、本当に加藤さん的な音楽について、お話しさせて頂くようになったのは、
 ごく最近である。

 で、
 このたび、その勢いで、密かに抱き続けてきた、シンパシーを、告白した次第であった。

 そこら辺の加藤和彦、聴いたことある人、いるかね。

 ホント、格好良いんだけど。


 
 
 

 

 
  
 

 

 


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