韓国の ハカナ
2泊3日の弾丸ツアーをやってきた、
もっとも帰りの飛行機なんか、実質1時間半強のフライトで、角館よりちけーじゃんみたいな距離感だ。
京成のスカイライナーと、ソウル〜インチョンの新アクセス電車と、どちらも四十分ほどだし
ほぼ国内と変わらない。
そんなに短いのに機内食が出るのが、これは国際線なんだと、必死に主張しているようで、なんかおかしい。
もっともソウルは、寒かった。
零下十度以下もあったと思う。
顔に刺さる風が、痛かった。
そんななか、
ハカナは、本当にやられていた。
て当たり前だけど
正確に言えば、大学路と道一つ隔てた場所のビルの地下で。オフてはんろー である。
東京にもありそうな、地下の小劇場。
客席数は百弱。
でもタッパはそこそこ高いし、ちゃんとしたイス席。
入場料は2千円らしい。
日曜の6時の公演で、客席はほぼ埋まっていた。
そして韓国語の、青鬼が語り出す。
鈴次郎もハカナも、韓国語。
ただし名前はそのままである。
なんとなく、和風な空間と創作衣裳で、でもそれは中国っぽいなと思うところもあり。
アジアンフュージュンである。
冒頭から客席がやたらに湧く。
そんなに可笑しい劇だったっけ、と言葉のわからぬ作者が不思議に感じる。
あとで聞くと、幼いハカナが、卑猥な言葉を無邪気に言うのに反応していたらしい。
構成はほぼ台本に添うが、出演者のやり繰りと、時間短縮のため、ところどころ変更されている。
そこには一部、私なりに意見もあるが、
芝居自体はテンポよく流れているし、俳優の演技もクリアなので、言葉は分からなくても、自然に観ることが出来た。
旗揚げ劇団といっているけど、実際は、いろんなところでやってきた俳優とスタッフが結集しているユニットであった。
演出家も立派なプロだ。
だから、細部にちゃんと意図があり、統一感がある。
実はもっと、学生チックな人たちがやってるんだと思いこんでおりました。
シュレイ(失礼)ハムニダ。
テハンローの芝居は、最近やたらと笑いが多く、テンポも速いのです。
でもこのハカナでは、我々は敢えて、間を取ることや、シリアスにやることを意識しました。
演出家のキムさんはそう言っていた。キムの下の名は、目下、失念中。ごめんなさい。
だが、このままではあちこちキムさんだらけになる。調べておきます。すみません。
しかし、笑いとテンポをどうとらえていくか。
これは我が国の小劇場でも何度も起きて、繰り返されている現象ですね。
私が、始めた頃は、演劇のストーリーは難解なほど良いとされていました。
それが、軽さと笑いの小劇場ブームがきて、脱アングラ化されていく。
もっともまだストーリーは、見直されてなくて、起承転結なんか崩してナンボだという風潮はあった。野田秀樹さんなんか演劇はスポーツだと言い張っていてな。鴻上さんは、パフォーマンスショーのようだったし。
そんななか、私は、アタマがすつごーく悪くて、そういう難しいお話についていけなかったから
誰でも分かる話をやろろうと思った、というか、それしか出来なかったのだね。
それで、ベタな物語みたいなのをやってたら、それがむしろ新しいと感じられた部分もあったわけだ。
今回の上演、
結構、面白がられているらしい。
斬新だと、とられているという。
おお、お話があんぜ、みたいなことだろう。
韓国の芝居の主流は、ミュージカルだということだし、こういうザ・演劇はむしろ冒険みたいなこともあろう。
ま、芝居の流行なんて、こういうことの繰り返しなのは、全世界きっと同じなんだろう。
ファッションと同じくな。
こちらからしたら、異国情緒の中のハカナを観て
ああ、ハカナって、かなりスタンダードな話だな、神話とかお伽話、みたいだものな、と改めて思ったのであるが、
新しいと、とらえられるところが、いかにも現代演劇のなかの話なのだなあと、しみじみ面白い。
新しいワケないものな。
この話が。
ただ、これを現代劇としてやる行為が、斬新と、とらえられるのだ。
終演後、劇団の方たちとマッコリでカモの鉄板焼きを頂きつつ、歓談を。
この劇団の主宰者は、イベント制作などやっている会社の人で、
今回の一ト月の上演は、プレビューの位置づけで、
秋頃にもう少し規模を大きくして、本格上演を目指すと言っていた。
で、この時期に演劇関係者などにもっと観て欲しいから、ここでの上演をもう一ト月のばすことにした、という。
ますますアマチュアなんかじゃなくて、マジなんじゃないか。
夢は広がるのであった。
にしても、
ちゃんとしている。というか、限りなく羨ましい話である。
決して潤沢な資金があるとは思えない。
劇団員たちはいずこも同じで、メシよりも服よりも、芝居が優先で、その次に酒と宴、みたいな感じだ。芝居が終わった焼き肉居酒屋で、わあわあと、語り合っている。靴下なんか、立派に穴が開いていてな。
それでも
一つの舞台に、それほどの時間と手間をかける。
だから、上手くいけば、ハカナは、しばらくソウルで生き続けることになる。
柳葉敏郎さんをキムチに漬けたような、男臭く野性的な韓国・鈴次郎が、涙と鼻水にどろどろになりながら、
同じく涙でボロボロになっている、坂本冬美さんを細くして柳腰にしたような、韓国美人のハカナを
ハカナ と叫んで抱き締めるラストシーン
それは話の上では、ハカナが死ぬ時なのだが、おお、ハカナが ここに生きていたと、
得も言われぬ、幸福感が胸に満ちた。
翻訳して、上演の話をまとめてくれた、扉座ソウル支局長・金文光や、この日応援に駆けつけてくれた
お伽の棺 に出て下さった韓国の伝統歌チョンガのファン先生、韓国の人気演劇サイトの主宰者のキムさん、(ホラまたもキムなり)
なにより、劇団詩月のスタッフメンバーに、カムサハムニダ。
皆、本当に心を込めて、作品に取り組んでくれている。
柳葉君も、冬美さんも、この役を愛し、魂を注いでくれているのが気持ちよい。
この上は、
この試みが成功して、ハカナの命が、さらにかの地で輝くように、演劇の神様のご加護とちょっとの依怙贔屓を祈るばかりである。
というわけで
ソウルのテハンロー、ちょい脇の、ビル地下劇場
ザ・シアター で、たぶん月曜を除く毎日、劇団詩月旗揚げ公演『HAKANA』が2月まで上演されています。
字幕など一切なしですが、見たことのある人は、だいたい分かるはず。
もしソウルにいて時間がある人は、ぜひ。
ただし今は、寒いっす。角館より、寒いっす。
