総額
マイブームなのが、新作『げんない』の1シーン、ミュージカルナンバー毎に、
値付けをすること。
このシーンでいくら取れるかなぁ。
ま、五百円ぐらいかなあ、とか。
普通の芝居だと、シーンの切れ目はそんなにないし、ばら売り的な値付けは難しいが、
1シーン毎に、いろんな歌や踊りが現れ、イベントが行われるミュージカルだと、ワリと考えやすい。
『ライオンキング』の奇想天外な動物たちが、あちこちからグワーっと出てきて、極めて美しくアートな太陽が昇っていくあのシーンなんか
そりゃ、ここだけで何千円か取れるよな、と思うよね。
油圧の舞台機構全開だし。
何よりアイデアとセンスが素晴らしい。経済の値打ちで計れぬが
個人的には、あのシーンだけに1万円以上払っても高くないと思ったね、初めて見た時。
それに比べてコッチは基本、人力頼みだし。
アチコチから人が出ても、なにせ小人数なので、すぐ出尽くしてしまう。
ま、ワンシーンなん千円なんてわけにはイカンと思われるが
それでも、シーン何百円をコツコツ積み上げて、この前個人的に試算してみたら、
総額六千何百円になった。
東京、大阪の人は、そう聞いてもそんな驚かんだろう。
何の仕掛けも、歌も踊りもない芝居でも、フツーに7千円をとる舞台なんてのはあるわけで。
それも帝劇、日生じゃなく、パルコとか本多劇場でもな。
しかし、諸君。
ここ入場料、いくらと思うね。
3500円だよ。そこにいろいろ割引とかもあって、もっと安く入場する手はいくらでもある。
制作しながら、常に予算の壁と当たって、いろんなことを諦めてきた。
発想的には、ブロードウェイにだって、ラスベガスにだって負けないことは考えられるんだよ。
ただそれを実現するための、開発費も足りないなんだから。
開発は、無駄も多いからね。
今回も稽古の試行錯誤で、新投入の小道具を何個か壊して、制作からプランの変更を命じられかけた。
それはまだ、誰も見たこと、やったことがないことで(まあ、見てみてみて)それを買って試してみなきゃ分からんことだった。
舞台用のグッズじゃない製品をアイデアで使うんだけど、本来の使い方とは違うので当然、壊れたりするし、挙げ句に却下という可能性もある。そうなりゃすべてムダということになる。
ただトライ&エラーの繰り返しなくして、進化も進歩もないだろう。
『ライオンキング』だって一個のお面が決まる前に、いくつお面が試作され、失敗作が消えたか。
そりゃ途方もない金がかかっているはずだ。
それをムダと言えるかい。
でも素人は、そんな分厚い試行錯誤の成果物と、我らの苦闘の末の作品とを、平気で同じ土俵で比べて、アレコレ言うんだから。
悔しくてならん。
それでも、足りないところは、智慧と労力で補って、頑張ってるけどな。
もっとも人に言われるということより、
何よりも、脳内プランはあるのに、それが出来ないという現状が悲しい。
も少しなんとかならんのか、と歯ぎしりしつつ、
そもそもキャパ400の小屋で、この値段じゃ、舞台にかけられる予算が足らないのも当然だと思い至ったわけだ。
で試算したら、こうなった。
控えめに考えても、六千円のものを半額近くで売ってる計算だよ。
チケットが安すぎる。
お客さんは、来るたびに、二千円以上儲ける計算じゃないか。
二時間の芝居を見物した上に、時給千円だ。
これは、何かがおかしい。
しかし、それでも芝居を見慣れていない人たちから、高いという声も出るそうな。
ワシ、一昨日の通しの後で、キャストとスタッフに言いました。
これで高いとかいうヤツがいたら、森さんに言いつけて
裏の菜の花畑に連れてって、ボコボコにして貰って下さい。
森さんてのは、今回の出演者で四十過ぎのオッサンだが、元は、かの横浜銀蠅の舎弟だったという、役者さん。
ミュージカルなんてやったことないし無理というのを、是非と頼んで来て貰っている。
杉田玄白という人物を演じて貰う、いかにもミュージカルみたいなのは、やめようというコンセプトのもと。
音楽監督と共に、今回こだわり抜いたキャスティングの、くせ者の一人である。
客がなんと思おうが勝手だ、とかいうけどね。
こっちにも生活はあるし、何より、安くすれば安くするほど、舞台の仕上がりにも影響は出るんだから。
人力や情熱で補うのも限度はあるぜ。
敬愛する、コムデギャルソンの川久保玲氏が、
安売りの服が大流行して値引き合戦になった時、意見広告みたいのを出した。
アジアの労働者たちの労働力を買いたたいて、服を安くすることを決して良いことと思わない。
ただ安くなればいいという考えには与しない。
優れた感覚、優れた職人たちの技、にはもっと敬意が払われ、その能力、労力に対して対価が支払われることなくしては
文化もファッションも、ひたすら衰退してゆくだけだろう。
川久保氏の服は高いけどな。
こういう哲学まで装えるのだと思うと、それを着ることが楽しくなるし、胸を張りたくなる。
敬意と対価だよ。
簡単に牛丼なんかと比べて、高いとかいう、馬鹿どもにも文化の値打ちというものを
菜の花畑で、教えてやって欲しいということだ。
坊っちゃん劇場の、役者にもスタッフにも、もっともっと敬意が払われ、正当なギャラが払われるべきだ。
とはいえ現実はなかなかそうもいかない。
それも分かる。
だから、今の状況で、もうしばらく我々も頑張り、来る人たちに二、三千円、渡し続けるけどな。
この場所で、この値段で、これだけものを見せ続ける我々には、せめて最高の拍手を一年間送り続けておくれ、
と言いたい。
追記
利楽村内の あさつゆマルシェ の洋菓子も安すぎる。
絶品のフルーツショートに コーヒーが付いて
350円 て。今はサービス期間らしいが
東京のホテルラウンジとかなら、千円以上はぜったい取れる。これもまた、味わった客が 大得してる。
