新水滸伝 まもなく
大阪新歌舞伎座 で 8月5日から始まる、
三代猿之助四十八撰の内
新水滸伝
一座は夏の巡業を無事に終えて、稽古場に集結し、朝から晩までガンガンと練り上げに励んでいる。
ちなみに扉座からも、ケンタ、ニィやん、ジョードイ、小ジュンジ、ゴリゴリら5人が出向。
見得とか、きちんと盗んでこいと座長から命を受けて、セリフまで頂いて勉強させて頂いている。
ところで本作。
今はなき ル・テアトル銀座の中劇場版から、一昨年の中日劇場再演に向けて、改訂した大劇場バージョンになって
立ち回りが倍増し、宙乗りも加わって
より おもだかの二十一世紀歌舞伎団的作品に成長し
ぜったいに退屈させない、派手で荒唐無稽で、しかし美しく熱い、
おもだか歌舞伎の舞台になっている。
東京版しか見ていない方にも、ぜひ見て欲しい舞台である。
盗賊どもの活躍する水滸伝だから、決して上品な世界じゃない。
愛すべき野卑な荒くれ者たちの物語。
立ち回りも客席になだれ込んでの場外乱闘。
初演の時は、
泥棒たちの話だから、どろぼう市 を開こうと
猿之助=元猿翁 の発案で、ロビーで
猿之助直筆の絵色紙なんか展示発売していた。
それも今思えば、一枚何千円のお手頃価格で。あの時買った人は大もうけだね。
そして忘れられぬのが中日劇場の初日の舞台。
ワタシは一階の最後列で見ていたのだが、幕が開いて、
梁山泊の親玉を演じる特別参加・劇団若獅子・笠原章氏が、プロローグのセリフを言い出すなり。
どでかい掛け声が鳴り響いた。
しかも、良い声、良い間。
やけにノリの良い人だな、と思ったら
猿翁だった。
その後も、右近、笑也っ、おもだか屋ーーーっ!!!
と猿翁は芝居の間中叫び続けた。
おもだか屋って、自分のことだろうに。
心底、歌舞伎が好きなのね。
実はその頃、ワタシも、歌舞伎のタノシミカタ なんていう市民参加型イベント舞台を作っていて
千葉の美浜や、日本橋会館で、笑三郎さんの歌舞伎ワークショップをがっつり体験したばかりだった。
その中で、みんなで、大向こう=掛け声 の練習をしましょうみたいなコーナーがあって、笑三郎の指導の下、ちょいと練習済みだった。
で、猿翁の勢いにつられ、
思い切って、おもだかやー、と叫んでみたら、これが気持ちよいこと。楽しいこと。
結局、初日の舞台で、演出家ふたりが、誰よりもワアワアと叫んでいるという公演になった。
それが演出家だと知らぬ人も大勢いただろうが。
掛け声は、出すまでホント、勇気がいるし、ドキドキするけど、
一度出したら、やめられませんぜ。
正直、きっちり古典的な大歌舞伎で、声を出すのは、かなりガッツがいる。
それで味をしめたワタシは、おもだかの芝居ではもはや古典でも遠慮なく、叫ばせて頂いている。こないだの厚木の四代目襲名披露公演でも、やっていた。
けど歌舞伎座でやるのは、やはりハードルは高い。
ここだなと思っても、自粛すること多々。
しかし、これは新水滸伝である。
新歌舞伎座とはいえ、大阪の新歌舞伎座である。
普段は演歌の人のステージとかもバンバンやってる庶民の劇場だ。
古典作品じゃないから伝統的ルールなんかないし、何しろ殺人鬼とか盗賊とかの物語だ。
ワアワア騒いでくれた方が舞台も盛り上がる。
作者兼演出家がそう言い、四十八撰とした三代目猿之助、みずからワアワアやってるんだから、ウソじゃない。
これが正しい意見です。
女の掛け声は、邪道でしょうなんていう、通人の言葉も聞くけど、
この舞台に限っては、大歓迎。女子高生にも黄色い声で叫んで欲しい。
と思って、こちらは作っている。
マジで。
だって、その方が舞台が面白くなるから。
そのために、客席まで乱入していって、立ち回りをやるのである。
舞台と客席を一つにしたいんだ。
凄惨な殺人シーンで、客席から掛け声がかかり、拍手喝采となる。
最もドラマチックなシーンで、役者の名が叫ばれる。
そんな芝居は歌舞伎しかないんだよ。
これが三代目猿之助が何度もワタシに熱く語っていること。
三代目の教え、四十八撰の内の大事なひとつである。
歌舞伎では、舞台と客席が、烈しく気を交換し合わなくちゃイカンのだ。
たとえば
オセローが最愛の妻デズデモーナの首を絞める時、拍手が起きるなんてことはないんだし
ましてオセローを演じる、誰か、たとえば唐沢寿明氏だとして、その時に、
カラサワー、なんて叫ぶ客はまずいないんだ。いたらつまみ出されるだろう。
でも歌舞伎だけはそれが大有りで、というよりもぜひ必要で、それが舞台を熱くする。
それが役者もノセる。
だから、役者から祝儀という、小遣いを貰って声を掛ける、玄人的な大向こうさんという人も生まれるのだろうが、
だからって、敷居が高くなるのは不幸なことだ。
元は、好きな人が、勝手にワアワアいってたはずのものだ。
選ばれた誰々しかやっちゃいけない、なんてことじゃない。
もっとも不用意にやると、芝居を壊すことがあるのも確かだから、あんまり調子はずれなのは困るということもあり、そこはお客も何度も芝居を見て、いつやるか、今だ、というタイミングを掴む努力はして欲しい。
しかししかし
この舞台は、ダイジョウブ。
多少はずれても、問題ない。
新水滸伝に限っては、そんな堅苦しい芝居じゃない。
殺人シーンに手を叩いて貰いたいし、主役以外の役者にも、大いに声を掛けて頂きたい。
ここも大事。
ふだんの歌舞伎では、なかなか大きな役を演じることはないけど、実はいろんなことが出来る役者が、
この一門にはいて、その人たちが大活躍する舞台だ。
みんな、おもだか屋 だから、まずは、おもだか屋 と叫べばいいし、その後、名前を覚えたら、
笑野とか、喜昇っ、とか気に入った役者の名前をモロに言えばよい。
役者もノッて、いつもより多く回ります。
新水滸伝こそ、
掛け声デビューに最適のものと申し上げたい。
ことに人情のまち浪花だから、すまし顔の江戸よりも、盛り上がるはずだ。
もちろんワタシも、その気まんまんで大阪に乗り込む。
まその前に、叫び甲斐のある舞台に、きっちり仕上げていかなきゃイカン。
熱くて、痛快なる夏に致しましょう。
旦那、初日に来て、また叫んでくれないかな。
おもだか応援方面、拡散希望!!!!!!!
☆付録
市川さんたちだから、市川ーーーっ
でもいいんじゃないかと思う人も多いと思う。
それでもいいかもだけど、 ここはぜひ
おもだかや という屋号を覚えましょう。
猿翁一門はほぼ おもだかや です。
なんで市川でなく、おもだか という別の名を使うのかはワタシも知りません、でもそうなってます。
海老蔵も市川だけど、成田屋で、菊五郎は尾上だけど音羽屋。ややこしいのは中村勘九郎は、中村屋なこと。
まテニスで、1点の次の得点は2点目のはずなのに、なぜか突然15点ぐらいに跳ね上がるじゃないすか、
ああいうものです。なぜかそうなってる。
豆知識をいうと おもだかは 植物の名ですが、実は江戸末期から明治にかけて、実在した吉原の遊郭の店名で
初代猿之助の強力な支援者だったということです。
風俗店の名をみんなで呼んでるってことなのね。ソープランドの店名でっせ。
面白いでしょ。
これが江戸文化。
