やり散らかし
台風が近づくなか、
東京では扉座新作『バイトショウ』の稽古。
大阪では新歌舞伎座『浪花阿呆鴉』上演中。
香川高松で穴吹ホールで『奇想天外歌舞音行劇☆げんない』上演中。
なのである。各地の情報を気にしつつ、目の前の活動を続ける。
やり散らかしなのである。
我ながら脈略のなさに呆れる。
しかし大阪の案件が間もなく、千秋楽を迎える。
この舞台の方針を固めたのは、『げんない』の舞台稽古のさなかだった。
最初は、ケッコウ中堅クラスの俳優を集めて、スペクタクルな感じの時代劇をやろうというのが、企画だった。
その名もピカレスク☆ロマンだよ。
だが企画進行のなかで、いろいろあって、キャスティングの方向が、若手イケメン俳優舞台、みたいな気配を帯びた。というか、まあ、一般的に見たらそうだろう、この並びは。
ちなみに、出演者のほとんどの人を知らなかった。経歴だけ見て、ホントにこれ、いろんな意味で、ダイジョウブなの、と心配にもなり。
当節流行のイケメン演劇は知ってる。けどまあ、ああカッコイイねえ、皆さん、ハンサムねえ、人気があって良いねえ、と思うこと以上の感想を、これまで持ってこなかったからな。
しかし遠く愛媛の片隅で、新作創りに没頭しているアタマに、それを深く考えたり憂慮したりする余裕はなく、
ま、なんとかなるだろう、するしかないだろう。
みたいな感じだった。ただ、それまでの企画案である ピカレスク☆ロマン てわけにはイカンだろうと直感したので、もっと若者だからこそ出来ること、を考えようと思ったわけだ。
でピカレスクが、改造チャリに乗る、時代劇5レンジャーにくだけて、いったわけである。
忘れもしない、
愛媛の利楽村の朝風呂に入りつつ、新歌舞伎座の9月はこのままじゃアカンぞ、なんとかせんと大失敗するぞ、と呻吟している時だ。
最近のわしは、大事なことを早朝に考える習慣になってるのでな。
湯船につかりつつ、もっとはじけた若々しい企画に思い切り路線変更せんとアカンと、ウンウン唸った挙げ句
ピカレスクというよりチンピラ、というよりも……さらに若くヤンチャな。
江戸時代の暴走族の話 みたいにならんかと、思いついたのだった。
まずは馬を考えたが、
舞台に馬を出す、ってのは、かなり大変なことを知っているから、5匹なんかとても無理だろうと諦めた。
あの馬は、一頭に前後の足でふたり、入る必要があるからな。馬要員だけで10人になる計算。そのうえ、そんなに快活に動かないのよ、人を乗せたら、ホント重くなるからね。
で次に、
チャリ では、
と自問自答したものよ。かるくね。
その瞬間ワシは、小躍りしたね。
チャリだよ、チャリだ、チャリだと。
これぞ、まさに江戸の暴走族であろうよ、と。
そのままアルキメデスのように裸で風呂を飛び出して、部屋に帰りパソコンに粗筋を書いたのだった……(嘘)
でも、この利楽の朝風呂あたりで呻吟し、思いついたというのはかなり実話だ。
すぐプロデューサーに、舞台に自転車走らせようぜ、とメールしたが、向こうも面食らったようだった。
でも、こちにも言い分はあったからな。
もはや、ビカレスク☆ロマン の並びじゃないもんね、コレ、って。こんな若造キャストでさあ、と。
いっそ、逆手に取った、新機軸を打ち出そうぜ、と。
そのうちに会社もアイデアに乗ってきて、それでいこうとはなったものの。
やっぱり、それまでの新歌舞伎座の演し物とはあまりにかけ離れているから、正直、観客動員は、大変であった。
今までと違うことを、新生・新歌舞伎座を披露する、というのが大きな目的だったので、新歌舞伎座にも覚悟はあったと思うけど
晴れの初日にも空席がたちこちにあり、我々スタッフも、少なからず心を痛めていたのだよ。
大きな声じゃ言えないがね。
やっちゃったかな、と……
しかし、劇場の神様は、我々を見放さなかったね。
見に来たお客さんたちが、コレ空席にしてるのもったいない舞台だよ、みんな見た方が良いよ、なんて、いろんなとこで広めてくれたりして。
出演者も、客席が薄かろうがなんだろうが、関係なく全速力で爆走し続け。
そのうちに、チケットを買い足しました、
もう一度見ます、また来ます、
というリピーターが増えてゆき、
ついでに友人誘います、
などとひとつの運動のように発展し。
ついに、ここからは完売御礼…………というのは嘘だけど
けっこう、盛り返してきているらしいのだ。
開幕してからの当地の盛り上がりは、東京にいてもヒシヒシと伝わってくるものになっている。
友人たちが次々に教えてくれる。
拍手が鳴りやまないよ、
ネットでスゴイ盛り上がってるよ、と。
最近はカーテンコールが、3回になってるって。
こっちはやり散らかしで、有る意味、無理にでも忘れて、新作に没頭しようとしてたりするんだけど、
そんなことを聞くと、嬉しいやら、ホッとするやら。
ありがとうね、支えてくれた、皆さん。
とりあえず、当初の目的は達成じゃないかね。
新歌舞伎座のスゴサを見せた。いろんな意味でナ。
こんなの創っちゃって、新歌舞伎座会員の、演歌好きのご長寿たちとかにも、平気で見せちゃうんだもの。
最近は、ぐっと若いお客さんが増えてるみたいだけど、初日なんか、
私も心の底からダイジョウブかとハラハラするほど、集まった客層が、見事に舞台と噛み合ってなかったものよ。
それがさあ……
今コレ書いてる時点で、あと4回の、浪花阿呆鴉。
応援して下さった皆さん、心からありがとう。
そしてキャスト、スタッフ諸君、しかと頼んだよ。
そういえばこのブログ、リニューアルして、皆さんからのコメントが残せないようになっている。
特に意図なく、たまたまそうなってるんだけど
替えて貰うようにします。
しばしお待ち下され。
