バイトショウ ちと真面目に演劇論
通し稽古をしている。
歌、踊り、演奏……といろいろあるので、チェックポイントが満載。
しかし、歌とかダンスはそれぞれの専門家がついてくれているので、
そのダメ出しを、演出家の私も、ほうなるほど、そうなのか、と半ば、感心しつつ聞く。
音楽監督・深沢桂子女史のご紹介で、今回歌唱指導して下さってる、小川美也子さんもそんなスタッフのお一人。
ミュージカル界では、よく知られた方。
伺えば大学が同窓で、学部も同じで、たぶんすれ違っていただろうという、同世代。
しかしその頃、ミュージカルなんて、遠い見せ物だったからねえ。
小劇場第4世代には。(懐かし過ぎる言葉だね。第3と第4は何が違ったか、もう分からないねえ。でも第4だったよ、たしかワシらは)
だいいち、まだキャッツ前夜だよ。
四季がキャッツやるって、騒ぎになったのがオレらの大学生時代。
この小川さんの指導方法が極めて面白く。
はい、片足で立ってそこ歌って。とか。
座りつつ、お尻の重心換えて、とか。
やたら具体的かと思うと、
はいエイになって泳ぎましょう。とサビのところで、突然言い出す。
しかしそんな歌詞はないんである。
エイとなって私は泳ぐ~ なんて。
ただエイのひれのようにカラダの後ろの方を意識して動かして、声を出すんだ、みたいなことらしいけど。
その間、音楽用語がほとんど出てこないので
音楽方面まったく無関係という、扉座座員にも、ついていける。
そして
たちまち、声が響き出す。
深沢さんが、この稽古場に必要よと言った理由がよく分かる。
この現場には、実は強力な助っ人がいるのである。
その成果も間もなく聞いて頂きます。
にしてもつくづく
歌とか踊り というのは、我流で追いつくことが出来ない。
ましてガッツや、意欲だけでも到底足りない。
レッスンが必要。でレッスンが裏切らぬ。
それに比して演技って何なんだと、つくづく思う。
今、第一線でやってる人たちの、ほぼ全員が我流だもんな。
小劇場出身が、主流になってるが
それはつまり、個々の劇団流の、無手勝流でやって来た人たちが天下取ってるということよ。
もっとも大劇場でも
稽古場に演技トレーナーがついてるなんて話、聞いたことがない。
仕方なく演出家が演技指導もするんだけど
その演出家が別に、上手に演技出来るわけでもないし、どこかで習ってきたなんてことも、ないんである。
上手に泣けない役者を、
はい、ウツボになって 涙流しましょう。
とか言って、魔法みたいに演技させたなんて話、聞かないし。
歌舞伎とかは、手のカタチが違うよとか言って、上の人が指導して、たちまち良くなると言うことはあるけどね。
かくいう私も含めた、演出家たちもほぼ我流。
せいぜい尊敬する人のスタイルをどこかで盗んできたとか、その程度の修行で、あとはただ実践有るのみ。
だから、芝居は常にアマチュアなんだ、と言うことも出来るよなあとつくづく思うのである。
歌や踊りの、プロアマの歴然たる差に比して。その差が分かりにくく曖昧な世界。
演劇生活35年の私が、アレは下手くそというものだろう、と思う演技や作品が
面白い、というならともかく。
上手いとか、優れている
と大々的に誉められていることが、少なからずあったりする。
物差しが別なのだろうなあ、と思うしかないわけであるが
この状況は、
そりゃ値段が付きにくいよな。
それぞれ感じる価値がバラバラじゃ。
だからもう、どんだけ話題になるか、客呼ぶかでギャラ決めるしかいなよね。
だが、それこそ
実力派が浮かばれぬ、悪循環の構図である。
比して、歌や踊りは、素人でもかなりの部分が分かるから。
大きく音が外れるモノが、小さくまとまってるモノよりも、面白かったり、味わい深いことはあっても。
スゲー、ということはないんである。
スゲーものは、ちゃんとした技術の上に、さらに個性が加わり、ハートが込められている。
だから、プロがプロとしていられる。
もちろん演技も本来、そうあるべきなんだ。
ただ、
何を持って、正しい演技の技術というのかが、未だ混沌としていて、クリアにならない。
こうしてミュージカルなんかやってみると、普段自分らのやってることの意味に、気付く点が多い。
でも、まだそこに追求すべき余地も多々あるよなあ、と思う。
そんな我が国における、混沌とした演技と、歌と踊りの融合。
そもそも日本語で創られるミュージカルが少ない状況のなか
表現の根幹に関わるはずの大切なテーマが、ロクに追求されていないのは当然で。
芝居のプロ集団として、そこんとこは我々が、歌やダンスのプロのチカラを借りつつ、きっちり追求し、成果をあげようと思っている。
稽古場、あと2日。
見えてきました『バイトショウ』
公開迫る、いよいよ土曜日から。
なお
厚木市文化会館公演では、若者応援シートという、学生のための優遇措置があり
格安で、見られます。
詳しくはウェブで。
若者たちにぜひご紹介下さい。連れてきて下さい。