危うく遺作になるとこだった

 これは書こうかどうか、ためらったのだけど、宣伝ばかりしてても卑怯だからな。
 事実を書く。

 先週私は、角館わらび劇場でロングラン中の『げんない』の杉田玄白役の俳優入れ替え稽古というのに行った。

 で一ト月ぶりに上演を見て、チェックしたり、その後、新キャストの稽古をしたりして
 いつものように出演者らと晩飯宴会を、わらび地区の座敷『ばっきゃ』で過ごした。
 ハイボールをほんの一杯頂いてね。
 私はそんなに飲まないんです。劇団主宰者なんでやたらに宴会は開いてるけどね。

 周りの人に呑ませるために、セッセと働いてるようなもんである。

 この日は修学旅行で一杯で、地区内の施設『ゆぽぽ』から少し離れた、山奥の
 山荘の方にお泊まり下され、ということになっていた。
 露天風呂は有るし、ここはここで良いとこなんだ。

 ただ早朝起きて移動して、アレコレやって疲れていたんだね。
 そもそも低血圧で、よく貧血的な立ちくらみとか感じることも、時々あったんだけど。

 妙にアルコールが回ってるような感じがあり、眠くて仕方なかった。
 怒涛の『つか版・忠臣蔵』の日々の疲れも残ってたろうよ。

 この山奥の山荘まで送ってもらって、さあチェックインという時に、
 サーっと、目の前が暗くなったわけだ。
 
 舞台のカットアウト的な暗転な。

 で、先生、先生という呼び声に気が付き、
 ふと見ると、ロビーの天井が見えて、わたしは仰向けに寝転がっていた。

 一瞬気を失って倒れたというのだね。
 ああそうですか、そら、すみませんと起きあがろうとしたが

 なんか目の前がグルグル回転してる。
 諸君、マンガなどで、よく世界が回転する図というのがあるが、アレは本当に起きることだよ。

 係の人たちに止められました、

 先生、動かないで。アタマを打たれていますから。
 今、救急を呼びましたから。

 えーーーーーーーーっと自分で驚いた。
 オレ、倒れたんだ。

 でピーポーピーポーと私が何度も芝居で鳴らしてきた効果音が、実人生の中についに鳴り響き、
 大曲という、角館の隣町の病院に、救急搬送されたのである。
 初、救急車であります。

 でCTスキャンとか、血液検査とか、して貰って、
 まあ現時点で緊急な危険はないだろうということになり、その夜の内に病院は出て、翌朝、自力で帰京したのであるが。

 我ながら驚いた。
 てっぺんに小さなこぶが出来てて、確かに打ったのだと、分かるんだけど。
 それがかなりのてっぺんで、オレ、本当にすっごい仰向けで、倒れたんだなあ、と。
 
 だってグワーとエビ反らないと当たらないはずのてっぺんだよ。

 で、そこに運悪く、岩石とかが転がってなくて良かったなあと。

 危うく、角館が我が人生終焉の地になるところであったことよ。

 ま、その日からかれこれ5日、恐る恐るの安全運転で仕事も再開してて、とりあえず今、異変はないから、もう大丈夫と思うんで、こうしてご報告してますが。
 出来事を知っている方には、多大なるご心配と、ご迷惑をおかけしました。

 大谷亮介氏還暦祝い公演に書き下ろした『八戒法話』も遺作にならなくて、良かったです。

 もちろん一所懸命に書いたので、胸を張ってお届けしますし
 先日、大谷さんの稽古も見て、これはもう面白いよ、と確信も持ちましたが

 何と言っても、ブタの妖怪が、色事の素晴らしさを心を込めて語るという、煩悩肯定の怪しい一人語りである。

 インドではなく、私は陰部に到達したのだ、と自慢するような話。

 もしあの時、打ち所が悪くて、かの地で客死する事態になっていたら、これがとりあえずの追悼公演になったことだろうよ。
 私の死を悼んでくれる人も、多少はいると思うけど

 これ見てじゃ、きっと泣くに泣けないし、そざ困ったろうなあと、しみじみ思う。
 遺影とか読経が、思いっきりふざけてるみたいな事態になるからな。

 大谷さんは、いやいや、我々は何とか成立させたと思うよ、と仰っていたが。

 さてね。
 一気に満員御礼になったろうにな、と呟いた一言の方がずっとリアルだった。
 そうはいくかい。

 ちゃんと生きて、初日の客席に座り、笑わして貰います。

 にしてもな
 いろんなことを考えるチャンスになった経験であった。

 もちろん今後の体調管理もだけど。

 思い知ったのは人の優しさ。気遣い。
 仕事とはいえ、山荘の見知らぬスタッフが、我が身を真剣に案じてくれるという、ありがたさ。
 
 救急隊という人々の頼もしさと、ありがたさ。
 オレを病院に送り届けると、では、とだけ言って、サーッと去っていき、
 ゆっくりお礼を申し上げる暇もなかった。

 その頃はもう、私もかなり覚醒してて、世界の回転も収まってて
 ありがとうございました、とだけは言えたけど。

 そんな言葉じゃ足りないね。

 税金とか、年金とか、しっかり払わなきゃいけないよと、しみじみ思いましたよ。

 こんな世の中の仕組みを誰が作ったかよく知らないけど、山奥で夜中に倒れたよそ者の命を、無条件で救おうとしてくれる頼もしきプロたちが待機してくれている、この国は素晴らしいと思いました。

 角館の消防署の皆さん、どうもありがとうございました。

 まあ油断はせず、当面セーフティモードでいこうとは思ってますが、
 まったく元気なんで、ご安心を。

 私の遺作になり損ねた『八戒法話』と蓬莱竜太さんの新作落語の二本立てで行われる、大谷亮介さんの壱組印公演、売り切れの間近の日も出てますので、どうぞお早めのご予約を。
 とにかく、
 すっげー馬鹿馬鹿しくて、クソ可笑しいです。

 還暦のお祝いに、こんなこと真剣にやってる大谷亮介という人は、スゴイとしか言いようがない。
 無事に、コレを見届けられそうで、ホントに良かった。

 様々なことに感謝しつつ……

 


 
 
 
 
 
 
 



 
 
 
  
 
 
 


 




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