孤独のガンマン
『フレンド』は無事航海に出た。
キャスト、スタッフは、櫂歌を口ずさみつつ、櫂をこぎ続ける。
新大久保を歩いていて、お客さんに声をかけられました。
なんか、
ありがとうございます、
とか言われて。
こちらこそ、ありがとうございます。なのだけど、気に入って下さったようで、とても嬉しい。
まあ、なにごとにも好き嫌いはあるから、お口に合わなかった方は、ごめんなさい。我々としては、ベストを尽くしております。
本番三回目は、もうほぼ観客として見ていた。
で、自然に涙が滲んだ。
自分に感動してるわけじゃなく、なんか、素直に演技にグッと来て。
今回はとにかくキャスティングが良かった。
まだ本が完成する前の、イメージで進んだんだけど、
奇跡的にハマったなと、思う。
人柄も皆、明るくて。ポジティブで。
楽屋にいて、とにかく楽しい。
決してハッピーな話じゃないんだけど、真っ暗な印象にならないのは、彼らの魅力のお陰と思う。
ともあれ、千秋楽までこのまま、良き航海をやり遂げたい。
そして私は、今朝、逆向きの電車に乗って
扉座稽古場へ。
いよいよ虎との格闘である。
昨日の夜公演が終わって、あとは頼んだと、座長に挨拶に行ったとき、乾杯しに行きましょうと誘われて、グラっと揺れたが、
切り替えだ、切り替えだと、自分に言い聞かせ。
それはもう少し、あとにしようぜ、とクールに言って、ひとり劇場を後にした。
この感じ、
さすらいの用心棒テイストである。
あとは君が、街の平和を守るんだよ、と若い保安官に言ってフラリと去るんだ。
こういう時、
町はずれで、ずっと反目してたはずの、気の強い美女が一人待ち構えていて、何も言わずに、用心棒に抱きついて、熱烈なキスをしたりするものである。
よそ者はとっとと消えな、 そう叫ぶ女の頬に、隠せぬ涙……
そんなこともあろうかと、新大久保駅にひとり、クールな背中で歩いたが。
佐津川も内田も、スタッフ女子も、そこに待ち構えてはおらず。
クールな背中は秋風にただ吹かれ、
何ごともなく、山手線に乗って帰り、茗荷谷で、なか卯のうどんを食べた。
クールな用心棒も結構、ツライ。
やせ我慢して、一人メシで太る。
しかしまた、孤独のガンマンは西部の街にしばし、腰を下ろし、ひと仕事するのである。