青春の痛み 厚木高校物語

 私戯曲県立厚木高校物語 ホテルカリフォルニア

 を紀伊國屋ホールで初演したのは97年。この時は厚木公演はしていない。厚木市文化会館との縁が生まれて、市と市民に支えて頂く、厚木シアタープロジェクトが誕生したのは、この公演後で、ホテカルによって、扉座が厚木高校を母体とすることが広く知られたことがキッカケだった。

 実は初演時、事務所には苦情電話が幾つかかかって来た。

 名門・厚木高校を貶める舞台作品など許さぬ、というものだった。熱い愛校心を持つ人がまだ多くいた。
 
 作中では、当時の進学校の歪みも、描いている。
 でもその歪みは真実だから、仕方ない。少なくとも作者の私は真実だと今も思っている。
 
 芝居の冒頭にも出て来る、正面玄関の貼り出し。私たちの在学中は、新入生を迎えるころ正面玄関に、その年の大学合格者が大学名とともに、掲示されていた。
 厚木高校に入学した我々は、何よりも先にまずそれを見た。

 中央に東京大学、京都大学、東京工業大学、一橋大学、そして医科大……
 見事に偏差値基準で並べられている。掲示の中央は偉い一流校、端っこに行くほど三流校。
 無言のうちに、そう語られていた。
 
 さすがに今はもう、そんなことはしていないらしいけど。

 あの頃の高校の本質は、県立の予備校だった、と思う。
 片方で質実剛健とか、伝統とか言いつつ、劇中でも面白おかしく描くように、旧制中学の様式を引き継ぐ応援団が存在して威張っていたりしたが、
 本音は学校の正面玄関に堂々と掲げられていたのだ。

 むしろ清々しいくらい、開き直ってた。
 
 これこそが、本校が君たちに望む未来図だ。称えるべき成功者だちだ。
 端っこは、恥だぞ!
 
 もっとも入学して来た新入生も、そのつもりで、わざわざここを受験して入っているのだから問題はない。受験の為に入った、高校なんだ。

 だからそこに、恋がないとか、友情がないとか、当たり前なのだ。そんなことは大学入ってからやればいい。
 その頃、敬愛するつかこうへいもエッセイに書いていた。
 
 大学受験で人格が歪むというけれど、人格なんか、大学入って形成するんだ、と。今の世の中、学歴なくて肩身が狭い方が歪むんだ、と。

 でもね……

 15歳から、18歳になるぐらいまでの頃です。
 
 今、還暦という歳になって、しみじみと思います。今の我らは一年なんて、アッという間にすぎる。たいして変化もなく。驚きも、感動もなく……

 この一年半、我々はコロナで大変な思いをしたはずなんですが、そりゃ不安も苦悩もありましたが、一年半失ったからって、心のダメージは実はそんなに深くない気がする。むしろ、今までの生活見つめ直したり、今まで出来なかった断捨離してみたり、

 なぜか、文体がですます調に変わってますが……

 大人たちは、この停滞の時期に、新たな教えも得たのではないでしょうか?

 しかし若者にとっては、この一年半は……
 身体が大きく変わる時、いろんな刺激が最も敏感に心身に刺さる時、体験と知識は増える一方で、すべてが新しく、考え方が日々変化してゆく日々……だったわけです。
 
 こんな日々は、二度とないんだ。青春はニ度とない、コレ、本当ですよね。長く生きて分かります。

 今、高校時代と改めて向き合い、芝居として稽古していて噛みしめます。

 あれは、大事な大事な時間だったんだと。

 あの頃みたいな、カラダと心が、寝て目覚めるたびに、変わってゆくような。
 生きている、ただ、それだけで発見と感動に満ち溢れる、あの頃が、どれほど貴重な日々であったか。

 ホテカル では受験生たちと共に、早々にそのトップクラスの競争から落ちこぼれてしまった者たちのことも描いています。
 私や、岡森、六角がその類です。
 我々はたまたま演劇と出会って、居場所が生まれ、精神は明るく保たれたのです。
 キッチリ落ちこぼれたお陰で、得た宝もたくさんあったという話なんです。

 でもそうじゃない者たちは……

 ホテカルは 楽しいけど、ちょっと痛い。

 これはそういう意味なのです。

 演劇部で出会った、僕らはラッキーだったけど、県立予備校で、孤独を噛みしめ、何かの罰のように、3年間、ただ勉強で過ごした同級生も大勢いたのですから。

 そしてそれは、単に45年前の厚木だけの話じゃなくて。
 きっと今にも通じていると感じるんです。

 青春500という、学生割引チケットも用意しました。何と、学生ならば、500円です。同じ時代を生きた方たちはもちろんのこと、今の若い人たちにも、メッセージを届けたいと思っての四十周年のプレゼントです。

 大人の皆さん、ぜひ若者たちに知らせて、誘って、奢って、お力添えを。
 
そして大人は定価で、どうか劇団を支えて下さいませ。
開幕が迫っております!


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