感謝をこめて
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かなり久しぶりの更新です。
今日は2025年のクリスマスイブ。
14日に公演終了した、「つか版忠臣蔵」では、その公演中に思いがけない朗報が届きました。
紀伊国屋演劇賞 団体賞 受賞
6月に公演した 北斎ばあさん 神奈川沖浪裏
12月の幻冬舎プレゼンツ つか版忠臣蔵2025
の上演成果によるもの、です。
いろんな演劇賞がありますが、劇団で頂けるものでは、この賞が代表的なものだと思います。あんまり物欲しげにしてると寂しくなるから、見て見ぬふりをずっとしていました。けれど苦労して劇団をずーーっとやって来ましたから、劇団があるうちにコレ貰えないかな、とも思っていました。
しかもここ数年、この時期に我々は紀伊国屋公演があって、その公演中にいつもロビーに、
紀伊国屋演劇賞発表
の張り紙が張り出されていました。
もちろん見て見ぬふりをしていましたが、当たり前だけどよく見える場所に張り出されるのです。
まあ前向きに、目標とする、というのは聞こえは良いけど、
設立45年ですからね、前向きの道のりが長かった。
そりゃ後ろ向きの気分にもなりますよ、地図もない曲がりくねった道なんだし。
だから嬉しい、本当に良かった。
しかも
私がSNSでかなり騒いだので、ご存じの方も多いかもですが、実は扉座、
ここ数年の大きな赤字決算で、今期、存亡の危機を迎えています。
それで夏以降、最後の挑戦として、劇団員総がかりでとにかく客席を埋めること、売り上げを伸ばすことに努力していました。
たった1、2度、少しの増収ぐらいじゃ、大きな危機は逃れないのですが、
それでも我々は活動を継続するのか、否か。その意志確認のための作業でもあります。
45年もやって来て、周りを見渡せば、かつて群雄割拠した小劇団もほぼ消え果て、
同じような劇団体制で活動を続けているのは、私たちの他、数えるほどになりました。
もう充分に闘って来た。そろそろ荷物を下ろして、身軽になっても良いだろう。
経営責任を負う私の、偽らざる本心です。
私、芝居創りはそこそこ上手いけど、経営とか、金儲けとか、さっぱりダメなんです。
ま、経営にたけた人に聞くと、たいてい今のカタチの劇団運営は辞めて、まったく別の形態での製作をお薦めされて、そこで終わるんですが……
しかしいざ、いかにも町工場的な財政破綻での活動停止の危機、となってみると、何かやり場のない怒りみたいなのが沸々と湧いて来て、簡単に白旗を上げたくなくなった。
俺達が心血注いでやって来たことって、こんな程度のことだったのか、と。
痔の手術のあとで、術後の死にたくなるような痛みと苦しみの中、劇作家人生初のギブアップも脳裏にチラつきつつ、しかしこれで公演中止にしたら、その負債に己が苦しむことは明らかなので、命がけでもやらなきゃマズいと、10分も座わってられないので床に這いつくばりつつ書き上げて公演した、
三千代と伴の、扉座重要文化財ふたりの主演芝居「北斎ばあさん」が、満席完売には程遠かったけど、思いのほか評判が良くて、劇団の潜在能力を示せた手応えを得た後だったことも、怒りの種となった思われます。
「北斎ばあさん」こそは奇跡だったと、私は今、感じています。
(※今となっては、手術のことなどすっかり忘れて、日々吾がナルはとても快調なんだけど、その時は辛かった。何しろ、毎日使わないわけにいかない場所にメスを入れる、という矛盾に満ちた治療なんです。ナル友の皆さん、痔でお悩みの方には、私、的確なアドバイスが出来ます。簡易手術と本格手術の違いとか)
ともかくそんな怒りで、私は皆に問いました。
もう一回やり直してみないか?
力を尽くして、それで好転しないならもう諦めるけど、この集団の力を試してみないか?
そう問いかけたら、劇団員たちが賛同してくれて、
幹部も新入りも関係なく、ポスターの町貼りから全員でやり直して、必死にチケットを売ったり、宣伝に頑張りました。
その結果、つか版 では全公演ほぼ満席という状況になった。
こんなこと20年ぶりぐらいです。
そんな時に、この朗報が届いたのです。
まったく劇場の神様は、意地悪でへそ曲がりです。
しかし、人の心を弄び、翻弄し、でも時々、人生最良の日だと思わせてくれるようなことを突然してくれる。
この賞を貰う前に、我々はすでに聖地・紀伊國屋ホールで、充分に高まっていたのです。
まだ出来るんじゃないか?
我々の情熱を受け取って応援してくれる人が、この世にはちゃんといるじゃないか、と。
何月何日チケット完売なんてお知らせするたびに、希望を得ていた。
その上に、まさにその時、天から光が差し込んできたのです。
無謀ナイト という幻冬舎プレゼンツ恒例の、学生無料招待公演の最中だったのです。
この無料公演の若者集めにも、とんでもない苦労がありました。
その様子はSNSなどで幾度も発信しました。
表向きは押さえつつですが、私は内心怒り狂っていました。
コレが埋まらぬくらいなら、もう活動停止だ、と。
(この辺りのFacebook読んでみてください。横内、見えない敵と闘ってます……)
俺達はもう若者に知られていない。
命懸けの舞台が、タダでも行かないと、扱われている。
心が折れそうなほどショックだったけど、
イヤここからやり直すのだと思い直して、現実を直視して、諦めず粘って、多くの方々に手伝って頂き、何とか満員に出来ました。
その当日、
400人の若い人たちで埋まった客席で、声だけでなくカラダを揺すって全身で笑い転、パチパチと大きな音を立てて叩いてくれた瑞々しい大拍手に包まれ、
我々もまた、演劇のチカラに励まして貰っていた、まさにそのさなかに、演劇賞の選考会が同じ紀伊國屋のビルの中で行われ、
公演中に、スタッフに受賞の知らせが届いたのでした。
幕が閉まって予定のカーテンコールが終わった時に、若者たちが立ち上がってくれて、
閉じた幕に向かって、拍手し続けてくれた。
袖にいた私は、思わず、
「もう一度、あけて!」と叫びました。
そして想定外のカーテンコール。
若者たちが皆、立って本気で叩いてくれた、嵐みたいな拍手の音……
そんな幸せなひと時の後、ロビーに出てみたら、そんな知らせが待っていた。
また店じまいするタイミングを逸することになりました。
荷物を下ろすわけにいかなくなった。
でも、これはもう天命というか、劇場の神様から与えられたミッションなのだと思って、この努力を続けて、またいつか気紛れの神様が光を当ててくれることを、微かに期待しつつ、扉座の復活を果たそうと、決意を新たにしています。
団体賞は、かなり高額の賞金が頂けます。
心から有難い。
もちろんすべて活動費に消えてゆく予定です。
そして瀬戸際の活動は続く。
でも今、勇気と希望に満ちています。
感謝と愛をこめて
メリー・クリスマス
