劇場へ

 劇場を巡る日々であった。

 金曜日は、お昼にアゴラで『飛ぶ劇場』を。
 泊さんの、覚悟のようなものを感じた。
 
 行き止まりの安アパートに引き籠もった男の、陰鬱な話なんだけど、
 そこに希望の光がチラチラと見える。
 暗くないのは、そこに自傷はなく、何とか出口を探そうと、精神が活動しているためだと思う。
 だから不思議に明るい。

 どしゃぶりの雨の中でも、歌うのだ、というセリフが心に沁みたな。
 狭いアゴラで、盆がぐるぐる回る、安アパートの大スペクタクル。
 こんな仕込みを旅公演で回す劇団力に、大拍手!

 その夜は、経済とH。
 久しぶりに客演した、杉山が良い仕事をしていた。
 佐藤さんもうまく使ってくれて感謝。

 にしても、経済評論家、佐藤治彦氏、本気で劇作に取り組み、もはや素人の域を大きく超えた仕上がりになっているのに、驚いた。
 もちろん、集まっているのは、スタッフもキャストも本格派なのだから、彼一人の手柄でもなかろうが。
 ちゃんと、独自の世界が表現されている。面白く、誰の真似でもなく。

 世間では、私が彼を演劇界に引き込んだ、ということになっているらしい。
 扉座の客席で見かけた彼に、私が声を掛けたのは確かだけど、
 引き込むつもりはなかった。

 私としては、彼には経済界にずっといてもらって、スポンサー探しや、演劇界の広告塔的役割など、演劇支援に尽くしてもらいたいと思っていた。
 
 それが、気が付けば、ひとり川を渡り、こっち側に生息する人になってしまっている。それも私以上に、ディープなこっち岸にいる感じ。

 どうみたって、この公演も採算なんか採れっこない構えだし。
 ミイラ取りがミイラになる?
 てか、そもそも彼がミイラだったってことだろう。
 私はたぶん彼の本当の居場所を教えてあげたただけだ。
 
 この調子で、どんどん貧乏になって、良い芝居作りつづけて下さい。
 
 と正しいアドバイスをしておいた。
 
 土曜日は、お昼に錦糸町の稽古場。
 その後、美浜に行って、

 井上堯之さんのソロライブ。
 
 これまた素晴らしい、時間であった。
 Jポップ、ロック界の重鎮だけど、

 名前とか、業績とか、そんなものはカケラも、見せず、ただ目の前の、小ホールに集まった百数十人のため、それだけのために今、音を奏で歌う。
 それ以上でもなく、それ以下でもない。
 
 完璧な人間サイズ。

 でもその心地よさ。
 音楽を聴き、さまざまなお話しに笑っているだけなのに、
 愉快な会話をしたような気持ちになる。
 コミュニケーション感が、ある。
 
 力が抜けた、というのとはきっと違うな。
 これが、達人とか、名人という人の持つ、
 力なのだろうと思う。

 ギターを聴いた、歌を聴いた、というのではなく、
 なんか温かい人にお会いした。

 そんな気分に人をさせる、至芸だった。


 終わってすぐに帰って、たまり始めた課題に取り組もうと思っていたのに、
 ついつい誘われるままに、
 幕張の中華料理屋まで付いていってしまい、
 
 楽しいお話しを更にアレコレと。
 そして夜は更けた……

 
 


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