釜山の初日
昼から通し稽古をして、7時半から本番。
ちょっと大学から出て、繁華街の日本式レストランという店に入り、写真がマシソヨっぽかったカレーうどん(五千ウォン)を食べてみたら、
まずかった。
素直に韓国食にしとけば良かった。
さていよいよ本番!
今日明日は満席で立ち見が出ますと、言われていたけど半信半疑な我々だった。
で、開場時間、確かに、人が沢山やって来る。
しかし、その人たちの若いこと、若いこと。
まあ、ここは大学なので、学生が見に来てくれたらいいなあと、思っていたけど、
にしても、あまりにも若者が多すぎる。
私、ピンときました。
ああ、招待券ばらまいたんだな、と。
しかも、スマップとかの作品もやってる日本の演出家の劇団が来ましたよ、みたいな怪しいツリで。
そもそも、どうみても、ロウソクの中で演じられる、悲劇のラブストーリーを見に来るような感じの人たちではないのです。
高校の制服姿の子たちもいるし。
でも、スマップは出ないし、歌はあるけど韓国の宮廷音楽だし、
正直に言ってイケメンもいないし……
途中で、バラバラと帰って行くようなことになるんじゃないかと不安が膨らみました。
そこで、たまたま近くに来た、演劇祭の海外担当の女性に、片言の英語で、観客が若すぎない?
と尋ねました。
すると、彼女は英語でペラペラっと、こんなこと(たぶん)いいました。
韓国では、演劇や映画は若者が見るものです。オールドな人たちは、ビジネスで忙しく、ほとんどこういうものを見ません。
「では、リアルな観客なの?」
「あなた何言ってるの?みんなお客さんだわよ!」
そんな客席の様子は例によって
ごぶもりブログ でご確認下さいませ。
http://gobumori.la.coocan.jp/blog/(ごぶもり日記)
更に当日券も売れて、階段まで若者で埋まっています。
そして開幕、
確かに、みんな、芝居を見に来た人たちだった。
で、よく笑う、驚く、見詰める。
過去3回上演してきた「お伽の棺」であるが、こんなに反応の良かった公演はない。
おっかあ が殺されると言えば「ああっ……」と本当に悲鳴が上がり、
岡森が、ちょっと(隠し味程度に)おかしなことやるとドワーっと湧く。
もともと暗くて静かで、一度始まると、終わるまで観客が寝てるのか、死んでるのかも、分からなくなるような、芝居なんだけど、
昨夜だけは、そこに観客が生きている、という空気が満ち満ちていた。
で、終幕。
最後のロウソクが、吹き消されると、
その瞬間を待つようにして、
一斉に拍手が起こった。
そして
「ウォー」「ヒュー」という掛け声。
若者の中には、男子もかなりいるのである。
インチョンでは、舞台の明かりが入るまで、拍手は起こらず、明かりを入れる舞台監督・池チャンを悲しませたものだ。
「すみません、拍手を待ちきれず、明るくしちゃいました……」
それは岡森が「きょとんとしてたな……」と表現した、戸惑いチックな間であった。
土地柄の違いなのか、年代の違いなのか……
たぶん、これは年代の違いなのだと思う。
好奇心に満ちた、若者達が、予測を超えて食い付いてくれた結果だと思う。
「ドリル魂」の終わりみたいな拍手だったんだから、本当に。
集まってくれた若者達、疑って悪かった!
心から、お詫びを申し上げたい。
その後、そのまま舞台では、Q&Aというのがあった。
参加劇団の初日に、観客との会話があるのである。
そこでも若者たちは、次々に手を上げて、質問をしてくれた。舞台上で、質問に答えるなんて、三十年前の高校演劇以来なんだけど、
それでも、こんなにたくさんの質問を受けたことはない。
出演者も居並んで、みんなで手分けして、お答えする。
終わってロビーに出ると、今度は高校生たちに囲まれた。
高校で演劇をやっている子たちだった。
昔は、扉座も高校生が大勢見に来る劇団だったけど、最近は、観客もぐっと大人になり、制服姿が珍しくなった。
こんなのも久しぶりだった。
ここでもみんな熱い。
「私は演出家を目指しています!何が必要ですか?」
「どうして戯曲を書き始めたのですか?」
極めて真面目な質問攻めであった。
気が付けば、終演から1時間以上。
それでも少なからぬ若者たちが立ち去らず、記念写真の時間だからと遮られるまで対話は続いたのだった。
インチョンの苦闘を、正直に書いてて、良かった。
今日の報告も、
偽りのない事実です。
帰りがけ、舞台監督の池チャンがしみじみ言った。
「今日は、舞台の明かり付けるのが、幸せでしたよ。インチョンでは、私が拍手を催促してるみたいでしたからねえ……
にしても、インチョンと釜山の順番、逆じゃなくて良かったですねえ……」
確かに、長い旅も今日で終わり。
これから2回目の舞台をやって、
いよいよ明日は東京に帰る。
しっかりとやってきます。