三つ巴の 火花を
書きの時の苦しみが、まったく嘘だったかのようなノーストレスの稽古が間もなく終わり、本番に向かう。
しかし、一昨日あたりから、通し稽古の後、大きな疑問符が、私のなかに沸き起こり始めた。
何かが足りない。
これじゃイカン。
それねかなり根本的な部分の問題だ。
で二回ほど、通し稽古をじっと見詰めて考えた。
で、導き出した、私なりの結論は、
今回のスリートップの間に、火花が散っていない、ということであった。
チラシに出ている、3人である。
それぞれにベテランで、放っておいても、ちゃんと自分の役を膨らませてきてくれる。加えて客演なのに、岡田氏は、極めてスムーズに我が一座に溶け込んでくれた。
で、サクサクと稽古も進行したんだが、
もしかしたら、それが逆に、芝居をつまらなくさせている部分があるのかもしれない、と思い至ったのである。
だからって、闇雲に喧嘩しても何も生まれはしない。
酒飲んで殴り合って、芝居が上手くなるなら、かつてのアングラ俳優は、皆、大俳優になってなきゃおかしいものね。
今も生き残って、良い仕事をしているのは、冷静に芝居のことを考え続けた人たちだけです。
ただの喧嘩屋は皆インチキで、見事に消えました。
これは歴史の証人として、きっちりと言っておく。
ではどうすればいいのか。
舞台で、きっちり火花散らして下さい。
と申し上げるしかないと私は思う。
演出家としては、かなり、大雑把な注文だけど。
しかし3人とも、長くこの世界に生きてきた、プロだから、これだけできっと分かってくれるだろう。
と言うか、それは私の願いなのである。
演出という職務上の、業務的指示と言うよりも、この3人で、ヒリヒリするような、対決の場面をたくさん見たいと、
客席側から見る者としての、
そういう単純な欲が出てきたのである。
決して難解じゃないし、理屈っぽくもないが、今回の芝居は、かなりストレートな、
男芝居になっている。
甘い恋愛も、家族愛もドラマにそれほど作用しない。
うんと粗雑にまとめたら、
徹底的な他者として、人と人が出会って、衝突し、互いに傷を負う話である。
そんな中で、弱さも悪さもひっくりめた、成熟した男性の魅力が、舞台上に充満して欲しい、と思うのである。
別の言い方で言えば、
オッサンの無様も含めて、カッコよく、なくちゃイカン芝居なんだ、と
ここ数日、私自身、やっと分かってきたのである。
芝居作りは、関わるメンバー一同が、きちんとコミュニケーションを取り合い、
一体感を持って取り組まなきゃ、絶対にうまく行かない。
だから、意気投合し、楽しくやることは、大いに結構なんだけど。
意気投合しつつ、本物よりも壮絶な、殴り合いや、時に憎しみの殺し合いを、リアルに再現してみせるのも
芝居である。
今この時に、こうして幸運に出会い、意気投合した3人が、
今、この3人にしか見せられない、
スゴイ火花を散らして、ぶつかり合う芸当を、この舞台で是非、見せて欲しい。
これが初日までの、課題である。
3人にとっての、人生のクライマックス にしておくれ、とそれはやや大げさながらも、
強い願望を込めて、そう言っておこう。
すでにそれぞれに、立派なキャリアを持つ 所謂、中堅俳優たちだけど、
中堅 を超えた、領域の芝居をお客さんに、お見せしたい。