新宿開幕

 新宿の幕が開く。
 今日は、満員御礼。

 また温かい観客に迎えられた。
 しかし、俳優はちょっと緊張しているように見えた。
 特に若手が。

 でもまあ、考えてみれば、紀伊国屋ホールですからね。
 ドリル魂 は別にして、本公演初舞台、初単独セリフ、みたいな若手が数人いるのである。

 わしらが初めて由緒あるこの劇場の舞台に上ったのは、かれこれ23年ぐらいの前のことであるが、

 そりゃもう、興奮して、みんなガチガチだったものよ。

 あがるな、というほうが、ムリな話である。
 まあ、緊張して、興奮して、その先に、課題が見えてくる。みんな通ってきた道だ。
 その道を今、自分が進める、その幸せを噛みしめつつ、気を抜かずにやり遂げてくれれば、今回は良しであろう。

 ところで、今日、場内アナウンスを聞いていて、我ながら呆れた。
 扉座 第42回公演なんだって。
 改名前の 善人会議 で29回やったらしいから、合わせて、71回だよ。

 無我夢中でやってきたから、そんなにたくさんやった記憶なんかないんだけど、
 尋常じゃねーよな。

 最初の頃から見てくれてるお客さんて、どれぐらいいるんだろうか。
 ほぼ、観客も代替わりしてますよな。

 そりゃ、こんなに長くやってりゃ飽きられもするだろうし、忘れられもするだろうよ、と妙な納得をする私だった。

 だがな、
 ここんとこ、諸君、しつかり聞いて欲しいんだけど、

 そんだけやってもまだ、わし、最新作が代表作です、という気持ちだけは続いてるからな。

 だから、今のとこ、わしの最高傑作は、

 人生のクライマックス

 であると、言っておく。

 今までやってこなかったことに、わしなりにチャレンジし、また新しい領域を開拓した、と
 そう思っている。

 自分で自分に期待する、

 その気持ちがなくなったら、クリエイターは辞めるときだと思うけど、たくさんの不安を抱えつつも、
 今回も、コレどーなるんだろう、とワクワクしてたから、わしはまだ大丈夫。
 
 ロビーに立ってて、いろんな人に声をかけられて、
 なんか泣き言ばっかり日記にあったから、
 とっても心配してたとか、言われて。
 
 大変、恐縮です。
 よっぽど、わしがこの公演に不安を抱えてたように見えたみたいね。

 泣き言の気持ちは決して嘘ではなかった。
 ホント、書くのはいつも以上に苦しかったから。
  
 でも、書き上げたところから、
 不安とともに、期待感も生まれていたのです。
 そこのところ、
 描写が足りませんでした。
 ご心配おかけして申し訳ない。

 なのでちょっと、安心材料を。

 私が信頼し、敬愛する大先輩から、この作品に対して、こんなことを言われた。

 横内クンはロマンを描く作家である。
 それが今回は、その得意な分野でない分野に乗り出して、苦しんで書いた後がはっきりとある。
 そこがとてもスリリングで、見ていてドキドキしてきたけど、
 それでも、ちゃんと横内謙介の作品になっている。
 そこには、俳優たちが、この劇団でそれぞれに育って、見せる力を持ったことが、大きな力になっていると思う。
 長い時間をかけてそういう劇団を作り上げてきたことは、たいしたもんだよ。
 どうか、この作品を、残る作品の一つとして、大切にして下さい。

 それは厚木公演で言われたのだけど、大きな勇気になった。
 
 まあ、開いたばかりだったから、気を遣ってくれた部分も多々あるだろうけど、
 
 71回目の公演。
 そこに至るまでの蓄積。
 
 それら一切ひっくるめて、

 わしら、は今もこの劇場に元気にいて、新しい作品を作り続けている。
 扉座は、止まってない、終わってない。

 そう叫び続けるような公演にしたいと思う。


  
 
 

 
 
  
 


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