32年前のこと
今回公演する、桜木町の青少年センターの思い出。
高校に入りたての時のこと、
部員がいなくて潰れかけていた演劇部に、名前だけ貸した。
演劇なんか、まったく興味なかった。
実は、北九州から、神奈川の中央林間に引っ越した時に、家族で、有楽町にあった芸術座の 二十四の瞳 という芝居を見に行っている。
残念ながら、中学一年生の私には、これは恐ろしく退屈なものであった。
だから、演劇なんて、むしろつまらないものと思っていた。
それが、
成り行きで、名前だけ演劇部員になったのだが、
その4月、たまたま、青少年センター で県下の高校演劇部生のために、プロの劇団の上演があった。
厚木高校の演劇部も、皆でそれを見に行くべえ、ということになって、
そのとき、名前だけ部員になった私と堀田クンのことも、
先輩が、一緒に行こうと誘ってくれたのだった。
まあ、辞める前に、一回、演劇見てみなよ。
先輩が、チケット代も出してくれるという話だった。
そうして、
たまたまの上塗りで、偶然にも私は、
つかこうへい事務所の 熱海殺人事件 を見たのだった。
私戯曲 ホテルカリフォルニア では
紀伊国屋ホールに行ったことになっているけど、
実は、桜木町の 青少年センターだったのだ。
つか事務所 としても、初めての公共ホールでの公演だったと聞く。
そして、そこから、私の演劇人生が始まった。
その日から、私は演劇に取り憑かれたのである。
すぐやめるはずだった演劇部に、のめり込み、
のみならず、つかこうへい にあこがれ、目指して、台本を書いたり、演出したりするようなことになったのだ。
中学生まではとびきりの優等生だった。
で、県下でも有数の進学校に入った。
そこは、少しでも良い大学に行くための、ステップ台に過ぎないと思っていた。
部活なんか、まともにやる気はなかった。
ただし、最初のテストで、五百人中の三七〇番をとってしまった。
学力テストの結果を見て、我が目を疑ったものだ。
学年で、十番以内が中学の定位置だったのに。
でも、周りもみんなそうで、そんな優等生ばかり集まった高校で、私は、初めて現実の厳しさを知ったのだった。
一方では、そんな深刻なショックを受けていた時だった。
でも、その時、芝居を見て、
たちまち虜になって、
突然、私は勉強以外の、目標に目覚めてしまった。
と言っても、その時、プロになろうなんて考えたわけじゃない。
ただ、我を忘れて、打ち込むものを見つけた、というだけのことだ。
もしかしたら、絶望的な勉強地獄から逃げ出したかったのかもしれない。
けれど、
そのことで、ただひたすら、落第チックな辛い状況をみつめて3年間過ごさなくて済むことになった。
おそらく、演劇が私を、救ってくれた。
その後、高校演劇で活躍したけど、
そのまま、大学などいかず芝居の道を邁進するガッツはなく、
浪人生活を経て、平凡な受験をするのだけど、
でも
その時は、真剣な目標が生まれていた。
とある先輩が言っていたのだ。
早稲田では 学生が芝居を見るのは、常識だから。
そんな大学に行きたいと、これはもう、心から思った。
実は演劇部にドップリつかった、三年生の夏頃は、私はついに四百八十番ぐらいの成績に落ちていた。
いくら厚木高校でも、
そんな成績で早稲田大学に入りたいというのは不遜の極みと笑われる、落ちこぼれの順位である。
でも、
そこから、一年間、駿台予備校の受験ターミネーター養成コースを受け、しっかりと一流受験生に生まれ変わることが出来たのは、
好きなことをやりたい一心 のことだった、と思う。
そのまま演劇の道に進むことなんか、ぜったいに許してくれない両親だったけど、
大学に入れば 何でもやって良し みたいな感じだったのである。
もっとも入ってみれば
大学なんて、たいして意味のある場所ではなく
早稲田では 皆が芝居を見る、なんてのも、眉唾であることを知るのであるが。
ともあれ
そんなふうに、生きてきたのも、
すべては
あの時、青少年センターで 熱海殺人事件 を見たからなのである。
青少年センターという、聞き慣れない劇場の名前。
しかも、横浜の桜木町で。
おそらく
多くのお客さんにとっても、
どこそれ なんでそんなとこで
という感じだろうと思う。
でも、
そこは、私にとってはまちろんのこと、神奈川の演劇史を語る上でも、とっても重要な場所なのである。
今も、神奈川の高校演劇の県大会は この場所だし。
ここから巣立った、演劇人も数多い。
そして
今回の ドリル魂 は、
この場所で上演するためだけに、
書き直し、新しい曲とシーンを作り、一ト月、横浜で稽古して作り上げるのである。
横浜編 といっても、特に横浜の名所とか、出てくるワケじゃない。
でも
そういう歴史を積み重ねて、
今、劇団が横浜で公演をする。
そういう意味での
横浜編である。
当然のこと
あの時、この劇場で、先輩に連れられて芝居を見なければ、
もしかしたら、私は芝居なんか無縁な暮らしをしていたかもしれず
六角や岡森とも、知り合わず、今の劇団もなかったかもしれないのである。
今回、私は
この舞台に、かなり特別な思いを込めている。
それは、こういう意味なのだ。
そしてお客様にお願い。
折り悪く試験シーズンらしいのですが
周りに、好きなものや、目標もない、という若者がいたら、ぜひ、この舞台に誘ってあげて頂きたいのです。
もしくは、行ってみろ、と勧めてあげて下さい。
別に、演劇に目覚めるなんて必要はないんだけど、
目の前の現実だけ見詰めて、息の詰まるような毎日を過ごしている若者に、
私たちの ドリル魂 はきっと何かのパワーを送ることが出来るはずです。
というよりも
そういう舞台に、ぜったいしようと思って、今、毎日、必死に稽古しています。
皆さんのご声援を よろしくお願い致します。
長文、読んでくれてありがとう。