中性脂肪

 恐ろしいもので、バリウムに慣れてしまった。
 そんで、もう、あんまり担当さんから、細かく指図されることもなく、一人で舞台上(?)をクルクル回転する。

 四十になった時から年一の恒例行事にしたから、かれこれ9回目ということなので、さもありなんではある。

 高いけど、頭部MRIもオプションで付けた。
 で、何か目隠しされて、アイスホッケーのキーパーみたいな網のお面被らされて、
 十分間、変な音聞きつつ、沈思黙考。

 とにかく頭を動かさないように、とだけ指示されている。 
 
 しかし、各種雑念がよぎる。
 以前書いたが、このクリニック、雑居ビルになっていて、エレベーターで、移動するのだけど、
 その時、こちらは検査用の、ガウン姿である。

 簡単に前もはだけられるようになっている。
 それにスリッパ。

 だけど、
 ビルには、何かちゃんとした金融系の会社も入っているから、制服のOLさんなんかも同乗してくる。
 で、MRIのある一階に、最上階の検査場から降りるとき、

 今日も、若いOLさん数人が途中で乗ってきてしまった。 
 数階分の、そこはかとない、やるせない時間。

 後で見たら、口の周りには、バリウムの白いのが、こびり付いてたりして。
  
 なんというか、プチ羞恥プレイ みいなことになっていたのだった。

 てなことから始まり、妄想が始まった。

 そんな時、エレベーターがもし止まったら、みたいなお決まりのヤツとか。

 今日に限って、MRIは、少し離れた別館でってことになっていて、このまま町を一人で歩くことなったら、どんなに切ないだろうか、とか。

 もちろん、エロにもイメージは広がり、
 女の受診者も、検査着で、こうして降りてくるんだよねえ、とか。
 ドックは、熟年層がほとんどなんですけどね。
 その、熟 という響きにも、可能性は広がるわけで。
 
 また、たとえば
 もし、この姿の俺とOLさんの、一対一状態の時に、エレベーターが止まってしまって、二人で身を寄せ合って共同作業しないと、再始動しないことになったりしたら、

 格好が格好だけに、ドキドキが増すなあ、とか。

 まあ、しょーもないことです。
 エレベータの修復のため、身を寄せ合ってしなきゃならん共同作業って何だ、そもそも。

 これはまあ、私のモーソーにはありがちなことではある。

 芝居書いてても、とにかくここで、ワーッと盛り上がる、みたいなメモがあったりして。

 モーソーのために、コーソー・構想だけ先走る。

 ワーッと盛り上がることだけが、先に決まってて、その中味はないのである。
 これは、かなり粗雑な状態ではある。

 ともかく、
 そんな雑念だらけで、MRI を受けたのだった。

 ちょっと心配になって、
 いろんなこと考えちゃったんですけど、とお医者さんに言った。

 すると

 大丈夫ですよ、考えたことが写るわけじゃありませんから、って。

 何か、妙に見透かされてる感が怖かった。

 実は、あの人の手元のパソコンには、写ってたんじゃないだろうか。

 身を寄せ合う共同作業の実態が。

 

 とりあえす゛
 中性脂肪が増えてたのと、採血に手間取るほどの、相変わらずの低血圧と、
 腹回りが、3センチ増してた

 のが問題で、今日のところは、大きな不安はなし。

 私、働けるカラダでした。

 モロモロがんばります。

 
 しかしっ
 今思い出した。

 私、最近、なんか黒いお茶、せっせと飲んでるんですぜ。
 高いのに。
 頼むぞ、ていいつつ。
 なのになのに、中性脂肪増加って何さ。

 それとも、抑えられた状態で、こうだったのか。

 謎は残った。

  
 
 
  


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