初日、そして東京へ
初日、2日目と舞台を見届けて、東京へ。
2週間ぶりの、ミイミイは、見違えるほど大きくなっていた。
さっきまで、濃厚なキスを繰り返していた。
アトムは、かなり本格的なミュージカルに仕上がった、と思う。
私は、角館ブロードウエイ・ミュージカルと勝手に呼んでいる。
本格的になった大きな理由は、甲斐正人さんの音楽。
今、我が国で一番忙しい、舞台音楽家であろう。宝塚なんかもレギューラーの四番の位置で、活躍なさっている。
わらび座 に関わって10年以上で、ずーっと指導もされて来た。
私としても、そんな方と組む以上は、芝居ウィズ・ミュージックの舞台ではなく、
肝心なときにこそ、唄声が舞台に響く、ミュージカルにしたいと思って、本を書いた。セリフの一番美味しいとこは、片っ端から唄で歌うことにして。
そして出来た唄を、ラッキィ・エリ夫妻に、オリジナリティ溢れるダンスに仕立てて貰った。
夫妻との仕事は、このところ連続なので、まさにアウンの呼吸。
簡単な打ち合わせで、あとヨロシクでも、想像以上のものが出来上がってきて、今回も大きく世界を広げてくれた。
そして、ここが大事なんだけど、わらび座 のスタッフとキャストが、それを立派にやり遂げてくれた。
いつもは厳しい甲斐先生が昨日、地ビールのみつつ、
オリジナルで、これだけ上手くいくのも、珍しいよね、と素朴に言っておられたのが、今回の成功を物語っている。
この人たち、唄も踊りも、かなりの研鑽を積んでいるのである。
正直にいって、もっと低いレベルを想定していたので、
わしも、現地に行ってその実力を知ってから、かなり考えを改めされたのであった。
当初、いろんな手でごまかそう、みたいに思っていた部分も、結果、ストーレートの歌勝負に、変更したり。
ただなあ
初日こそ、秋田・角館方面の名士の皆さんや、支援者が集まって、盛り上がっていたけど
2日目になって、熱心なファンもいるものの、一方で温泉ゆぽぽと、抱き合わせ観劇コースみたいな、雰囲気もどーっと溢れだし、
昼間っから隣の地ビールたらふく飲んで、顔真っ赤にしたお父さんが、あくびしつつ、さあこれからがっつり寝るぞモード全開みたいな、気配で劇場に入ってくる姿を見ると。
ここで本格的なミュージカルをやるというのも、大変なチャレンジであるなあ、としみじみ思う私であった。
もっとお気楽な、演芸ショーがふさわしいのでは、なんて思ってしまう。
かと思へば、明日からは、修学旅行生たちが、どんどんと見に来ることになっているらしい。
もちろん、それも意義深いことではあるけど、なかにはそんなもの見たかあねえと、思いつつ、シラケきってそこにいる子供も大勢いるという事実はあるわけで。
かなりの力を持つ、わらび座 の俳優たちは、しかし、皆、おしなべて謙虚で、真面目である。
それは実に好感がもてるんだけど、一方で、自信なさげに見える瞬間もあり
それは、この厳しい環境の中で、毎日毎日、舞台に立ち続けることで、すり減っていくものもあるだろうと、烈しく同情する私であった。
最初から、酔っぱらって、しばし寝てく気で来てる人に、真剣に芝居をして見せるというのは、そりゃ、辛いことだよ。
エネルギーをひたすら、奪い取られてゆく、むなしさがある。
しかし
それでも闘いは始まった。
とんでもない田舎であるはずの鹿島に、世界的なサッカー場があり、世界的なサッカーチームがあって
近隣の農家の人たちが、それを支えているということがあるように。
角館に、ミュージカル劇場があって、
かなりレベルの高い舞台を、温泉および地ビールと抱き合わせで見て、フツーに楽しんでいる、というのも、ひとつのファンタジーであろう。
思えば
あの宝塚歌劇団だって、最初は宝塚温泉の、人寄せショーだったんだからね。
幸い、このアトムには、2年間やり続けるという、大きな武器と特権がある。
それだけ長い公演のなかには、とんでもないアウェイ戦もあるだろうけど、
それでも、やり続けるうちに、味方が増え、そこがホームになってゆくという、こともあるだろう。
今のところの手応えでは、
信じてやり通せば、2年後にはとんでもない奇跡が起きているんじゃないかと、という予感もしている。
実際、ゲネや本番を見た、少なからぬ人たちが、これを自分以外の誰かに見せたいと、言ってくれている。
それがジワジワと全国に広がっていけば。
私よりもずっとキャリアの長いベテランのスタッフや俳優もいるなかで、はなはだ不遜ながら、
一端のお別れの言葉として、残してきたのは、
自信とプライドをもって、やって下さい、ということであった。
それはつまり、十分にその根拠となる、ぐらいの舞台を私たちは作りあげた、ということなんだ。
どうか
アトム の味方が、増えていきますように。時には、彼らに、ご褒美が与えられますように。
それを心から祈る私であった。