かんざきよごらう
頭の中では、まだ、アトムのナンバーが鳴り響いている。
ずーっと、稽古場か劇場に居続けたカラダも、ちょっと悲鳴をあげている。
ああ、他の場所にしばし消えたい。
でも、神崎与五郎が待っている。
アトムとも、ミュージカルとも全く別世界の、下町の人情劇である。
気が付けば、厚木の初日まで一と月もない。
それで、稽古場にひたすら向かう。
しかし、六角ともかなり久しぶりである。
扉座出演は、3年以上、空いたのだそうだ。
ずーっと一緒にやってきたから、そんな気はしないのだが。
そんななか、岡森がまた、備品を壊した。
うちの稽古場の明かりが暗いうえに、老眼鏡を忘れたとかで、
台本が見えないと騒ぎだし、若手が大あわてで、舞台で使う、裏明かり用の電灯を持ってきて進呈した。
こりゃいい、とよせば良いのに、それを手で掴んで、台本を照らしてしばしご満悦だったが
何かのはずみで、手を滑らせて、それを床に落として、たちまち電球が割れて、白煙を立ち上げて、明かりは消えた。
六角と、思わず呟いた。
オレたち、高校時代から、この風景を見ているぜ。
老眼鏡が必要になる歳で、まさかソレをまた見ているとは、思わなかったけど。
劇団初期には、まだ岡森になる前の、オカモト君が、借りている公共施設の壁を蹴破ったりして、一同が途方に暮れている証拠写真も幾つか残っている。
そんななか
もっとも被害を受け続けたのが、六角のメガネである。
岡森と六角は、芝居のなかで絡みが多く、そのなかで 六角が岡森に胸ぐらを捕まれて、ひどい目に遭う というシーンは必須であった。
そしてそのたびに、六角のメガネは壊れた。
ヒビがいったり、柄がねじ曲がったり
六角のメガネはいつも、重傷状態であったものよ。セロテープとかで、要所が固められていたりして。
その度に、金のなかった六角が
弁償して下さい、弁償してください
と詰め寄り、
もう演劇なんかやめると、泣いた。
実は今回も、胸ぐらシーンがある。岡森が、六角を殴る。
なぜか、二人が舞台にいると、そうしなきゃいけないような気に、私もなってしまうようだ。
それで、またそんなシーンがある。
たぶん、メガネは数回壊れると思う。
そんな
神崎与五郎・東下り
正直疲れ果てて、少しグタグダ気味ながら、とりあえず発進しておりまする。
応援頼む。