アトム を 舞台に

 わらび座 の人々は 今頃、劇団専用バスに乗って東京を目指している頃だろう。
 なぜか、そのなかに、ガンちゃんもいるらしい。行きは新幹線だったのに、帰りはみんなとバスなんだって。

 一部に、ガン平氏の今回のわらび地区滞在には 客演活動とともに、婚活活動も テーマのひとつにしていたと噂に聞いたが
 果たしてその首尾は如何に。

 嫁を連れて帰ることが出来たのか。

 婚活してもいいけど、あなたがこっちに住んで下さいね、と劇団ベテラン女優に、釘をさされている姿は何度か見たが。

 それはともかく、アトムである。

 このアトムでは いかに、あのアトム、を出さないか、を一所懸命考えた。
 どう考えても、あのアニメのアトム を人間が舞台で演じる姿が、想像できなかった。

 そもそもあれは裸なのか、何か着てるのか。

 生身の人間があの姿になったら、たぶんプロレスパンツ一丁 にしか見えぬからなあ。
 オッサンがやるとぜったい気持ち悪いし、かと言って、若い小さな女の子、がやっても、プロレスパンツ問題があるし。

 しかし万が一、あのコスの似合う、可愛い男の子が、みつかっても、
 ぜったい空なんか飛べないし。

 悩ましい。

 アトムをヤルと言い出したのは、
 わらび座で
 
 私には、アトムをやるかやらぬかしか、返答の余地はなかった。
 も少し前段階で、打診を受けてたら、別の演目やりましょうと、即答していたと思う。

 わらび座にしても、当初は、それではどんなアトムが出てくるべきか、ビジュアルイメージはないに等しかった。
 パンツ姿は回避したいと、それだけは聞いたかな。
 
 稽古途中のこと
 角館駅で電車待ってる時、

 地元で、わらび座をいつも見てるらしき母娘が、会話してる声が聞こえてきた。
 駅なのに、人がほとんどいないので、聞く気もないのに、聞こえてきてしまう。
 
 娘さんが、本気で心配してた。

 今度のアトムが心配だよう、
 わらび座、ぜったいやっちゃったよお。
 だってアトムだよ。
 きっと肌色のタイツだよ。それにパンツだよ。
 あたまに、ツノだし。
 誰が、その格好すんだよお。
 なんで、そんなことすんだよお。
 ぜーーーーったい
 やっちゃったよお。
 心配だよう。


 この人たちのみならず、みんなが心配してくれた。
 今もたぶん、多くの人が心配してるだろう。

 見てはいけない物を、見てしまうのではないか、と。

 その時、素性を知られたくないと心から思って、じっと見たくもない観光パンフを読み耽るフリをした私も、当然、そこを心配したし、そこを悩んだのだ。

 だから
 アトムは 出て来ちゃイカンだろ、という結論に至ったのであるが

 あのアトム、は出さない
 それは簡単だけど、

 それでもタイトルは アトム だから。
 アトムでない物語は作れない。

 しかも、前衛劇をやるのではないんだから。
 観客を煙に巻いて、芸術です と開き直ることも出来ない。

 アトム を待ち続けて、結局何も起こらない、近未来の平凡な人々の、小さな喜びと悲しみ、を2時間弱しみじみ描くとかね。
 そーいうの、他の誰かがやったら芸術だねと誉められそうだけど、私がやったら、サボルなよ、と叱られる、この不思議。

 だから逃げ道はない。

 アトムは出ないけど、ちゃんとアトム。

 これが今回の課題。

 なかなか難しいでしょ。
 
 で、そのアンサーを間もなく、東京の皆さんにも、ご覧頂きます。

 そーいえば
 今、書いてて思ったけど
 あの駅の母娘、

 わらび劇場の舞台は、見てくれたのであろうか。

 


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