えにしの少年
歌舞伎のタノシミカタ
美浜公演は市民のがんばりの上に、笑三郎さんら、本物歌舞伎チームの本気、が炸裂し、たいした盛りあがりで終わった。
でもまだ終わりではなく、10日には、水天宮にある日本橋公会堂に移って、残り2ステージをやる。
今度は花道もある劇場。笑三郎スペシャルの、狐火 もさぞ、本格的な舞になることであろう。
ところで
この催しには6人の小学生が参加していて、かなりの部分、大人よりしっかりと歌舞伎を習い覚えて、楽しい舞台を見せてくれている。ダンス経験があったり、日舞を習っていたりして、それぞれに意識も高い、素晴らしい子供たち。
そしてそのなかで、ひときわ異彩を放っているのが、高円寺から千葉の美浜まで通い通した、小五のリュウスケ君である。
オーディションの自己紹介から「歌舞伎なら何でもいいです、とにかくやりたい」と言って現れた、少年だ。
やらせてみたら、どれもしっかり出来る。
あんまり面白いので、今回の舞台でも、切られ与三 なんて大人の大役のセリフを担当して貰っている。
私は素人なので、よくわからんのだが、素人目には非の打ち所なく思えるほど。
指導してくれた笑野さんや、猿紫さんも、感心していた。
笑三郎さんもこれだけ出来ればいいでしょうという感じで、ダメ出しもほぼなかったのだが、
それは
てっきり、どこかの指導者について歌舞伎を習っているのだと、思っていたからだということで、
日舞は習ってるけど、歌舞伎の先生なんかいないということが分かり、それならばと、かなり本気モードになって、手ほどきをしてくれた。
それをこの少年は一発で習得する、セリフも一度聞いて、歌舞伎の微妙な音が写し取れる。
抜群に良い耳を持っている。
これは天才なんじゃないかと、我々は感心するばかりであった。
んで、更に驚くべきことを我々は知る。
この少年のお父さんが実は中国の人で、京劇俳優だったのである。日本人の奥様と結婚されて、今は日本に住んでおられるが、北京の芸術院のご出身だと。
そこは私も、スーパー歌舞伎三国志などで、お世話になった、京劇界の総本山のようなところである。
その上に、かつて リュウオー という歌舞伎と京劇をガチに組み合わせて、猿之助さんが創った、スーパー歌舞伎があったのであるが
その中の京劇チームに、このリュウスケ君のおじいちゃんが、参加していたというのである。
亀大臣という大役を演じたのだとか。
つまりリュウスケ君のお父さんとおじいさんは、二代続いた京劇俳優なのだった。
そういう縁もあり、高円寺からの日参であったか、と知る。
ところで君は京劇を継がなくていいのか、と聞いたら、
僕は中国語が出来ないし、それより歌舞伎がいい、
と答えるリュウスケ君。
身のこなしといい、口跡といい、なんか、フツーじゃねえなあと思っていたのだけど、
なんちゅーか、芸能の遺伝子が、組み込まれているのだなあと、納得した我々であった。
といっても歌舞伎初体験なのは、間違いなく、お父さんとて歌舞伎の指導が出来るワケではないから
それでこれだけ出来ちゃう、この少年はやはりただものではない。
美浜の舞台でも、この子が出てきて、
ご新造さんえ おかみさんえ
とやり出したら、最初はちっこいのが何かやってる可愛さに、拍手していた客席が、やがて驚きのため息に替わり、
最後には鳴りやまない大喝采になった。
それでも動じず、平然と与三をやり通す、小五。
なに、マジで歌舞伎役者になる気?
と聞いたら「あ、はい」だって。
公演が終わったら、笑三郎さんの家の前で、荷物抱えて、正座して待ち伏せし、弟子にして下さいとお願いしに行く、かもしれない。
そんな不思議な出会いのあった、歌舞伎のタノシミカタ
好評のうちに、日本橋に乗り込みます。
まだお席はあるので、この三代に渡る因縁の出会いを目撃したい方は、ぜひ、急いでご予約を。
追伸
トラオも出ます。