ミキシン のこと

 三木眞一郎 と出会ったのはたぶん15年以上、前だ。
 彼の出ていた芝居を池袋で見て、その後話した。

 ワタシの芝居をいろいろ見てくれていた。

 その後、劇団の公演に通ってくれて、座員の飲み会にも参加するようになった。酒の手が合う、有馬や、六角とワタシよりもずっと親しく交わった時期もあったと思う。
 六角がシモキタで酒場をやっていた時は、毎日のように入り浸っていたし。

 その頃からいつか、芝居をやろうねと、約束していた。
 とりあえず実現したのが、一昨年の乱童だ。

 ただ、あの時はワタシのスケジュールの都合で、第一稿までを今はうちのパンフなどのライターもやってくれてる、上原英司にやって貰った。

 タイトルロールは同業の、森田成一氏だったし。ミキシンの出演が決まったのも実は最後だった。

 あの公演の時に、次は君とガッツリやるからね、と約束した。
 でついに迎えた今回の公演だ。

 今回は、彼が出ることが最初に決まっていた。
 そしてそのために書いた。

 しかもこれは、ワタシにとってもチャレンジとなる、ちょっとハードルの高い仕事である。
 敢えて、そこに一緒に加わって貰おうと思った。

 こちら側が出来上がっていて、そこに迎えるようなスタイルは安全だけど、一緒にやるのは、お互いに未知な境地を目指す、冒険じゃないと本当の意味で燃えないし、面白くもない。
 特に、一度、乱童でやってるから、ご挨拶と、試運転は済んでるわけで。
 
 今回はミキシンと山を越えたかった。
 ワタシにとっても言い訳の出来ぬ、退路のない真剣勝負で。
 
 だから、いろんな無理難題を要求した。彼が多忙なのは百も承知だけど、こっちも断崖絶壁を伝っていくようなチャレンジに必死で、特別配慮なんかしてらんなかった。

 声優とは思わず、あくまでも演劇人として、舞台俳優として、この舞台にのぼって貰うことを求めた。ダメ出しも、皆の前で、遠慮なくやった。恥もかかせてしまった。

 主役ではあるが、他の出演者は、演劇経験においては、彼よりもはるかに先輩の人々なのだ。
 彼が2日かかることも、半日でやってしまうような、技術も持っている。ワールドクラスさえ、数人いて。
 

 辛かったと思う。
 もともと痩せてるのに、明らかに更に痩せた。
 
 レギュラーの仕事もあるから、稽古時間も足りなくて、彼が来る日は、夜遅くまでやるハメに何度もなったし、たぶん睡眠も足りてなかっただろう。
 加えて誰よりも繊細な彼のこと、

 カラダは疲れても、心が安らがなかったはずだ。
 
 ちょっと前、かなり不安げにして、聞きに来た。
 僕、大丈夫でしょうか。

 思えば、彼に向かって言うことは、ダメ出ししかなかったから、不安も頂点に至ったのであろう。

 乱童 の時は、も少し、誉めたり、励ましたりしていた。

 今回そうしなかったのは、彼に対するスタンスが前回とは違うからだ。

 前回は多少、彼の船出を見守るような、気持ちでいた。
 初めて大海に漕ぎ出すのだから、何よりも無事に航海を終えさせてあげたいという気持ち。

 しかし今回は違う。
 彼はあくまでも、共に荒海を航海するクルーだ。しかもこの航海が成功するかどうかの鍵を握る人。

 そこでは良くて当たり前で、いちいち、誉め合ってる余裕なんかないのである。
 
 乱童 の時に比べたら、別人ぐらいに上手くなってるよ。

 あれでいろんな演劇関係者の目にとまったキミシンは、その後、いろいろ舞台に誘われ、自信と経験を身につけてきてもいる。
 舘形氏とも、そういう舞台で競演してるし。
 それらの積み重ねが、稽古での立ち姿にちゃんと現れている。

 ただ、その程度で止まって欲しくないから。
 僕らとこうしてやる以上、どんな演劇人の集いの中にも気後れせずに交わることの出来る、真の演劇仲間になって欲しいから、要求は辞めないのだ。

 尾崎さんが今更、私たちと関わってこんな苦労しなくてもいいのと同じぐらい、ミキシンも、今ある自分の仕事を守り、ポジション維持に努めていれば、何の問題もなく一流声優として、誇り高く、平和に暮らしていられるのである。

 それが四十を超えて、まるで新人俳優のように、謙虚に、そして真摯に、稽古に取り組んでいる。
 恥も掻き、ブライドも傷つけられて。やせ細り。
 馬鹿と言えば馬鹿。

 だけど、これはあの池袋の居酒屋で、出会った時に、確か彼が言った言葉を、実現させる長き闘いのクライマックスでもあるのである。

 僕芝居が大好きなんです。声優を本業としつつ、いつか本格的な舞台にも立ちたいと思っています。横内さんの作品にとは、今ここではおこがましくて言えませんが…… 
 

 もちろん彼の闘いはこれで終わりじゃない。
 むしろ、ここからがスタートのようなものだ。

 ただ、これで20年近くになる、ワタシと彼の出会いの、大いなる序章が終わる。

 その評価は、見てくれる皆さんに委ねたい。


 声優・三木眞一郎の特別出演ではなく、俳優・三木眞一郎として、舞台を背負った彼の晴れ姿。

 声優ファンのイベント的な期待も、演劇ファンの疑いも、見事に裏切って、誰も見たことのない、松茂勝也という、この物語の登場人物の役をまとって、そこに立ち、客席に熱い魂を伝える、ミキシンをワタシは見たい。

 にしても
 そんな長い長い約束を、こうして果たして行く、オレもなかなか偉いじゃないかと、誉めてやりたい。
 
 もうすぐ乾杯だね。

 頑張れ、三木。


 


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