賀来千香子さん
賀来千香子さんが、出演するのである。
かつてJJのトップモデルで、そこから女優に転身した、方。
昨年、片岡愛之助さん主演の舞台『花の武将 前田慶次』という大阪松竹座の舞台で、初めてお仕事をさせて頂いた。
もちろん名前は知っていたさ。
わしが若者だった頃の、いっちゃん奇麗なお嬢様だったからな。
でも、こっちは夢と希望しかない、貧乏演劇学生で、向こうは、いっちゃん奇麗なお嬢様で、キラキラすよ。
流行の可愛い服着て、ちやほやされててさ。
ケッ と思ってたさ。
一方的に、カンケーねえよ、とか毒づいて。
それが時を経て、こうしてひとつの芝居を創ってるワケですからねえ。
人生は、分からないものよ。
そんでさあ、まあ、出会った現場が、商業演劇だから、賀来さんは、わしのこと、先生とか呼んだりするのよ。
厚木舞台アカデミーの子供たちでさえ、横内さん、としか呼ばないのに、大女優が、先生と呼ぶものだから、若い劇団員とか、何が起きてるのか、事態がよく把握できないだろうよ。
先生とか、やめて下さい。横内クンとかでいいんすよ、とか言うんだけど、賀来さんがまた、律儀というか、丁寧な方で
いえいえ、先生、と譲らない。
結局、今も先生、のままになっている。
それだけでなく、とにかく、お行儀が良いというか、言葉が極めて美しく丁寧な女性でね、
稽古場で、誰に対しても、エレガントにして、優しく接しておられる。
そりゃ皆、恐縮しますよ。
今日も、後ろの席に座っていた、伴美奈子に、
「このカバン、ここに置かせて頂いてよろしいでしょうか?」
なんて話しかけておられた。
伴が、お願いですから、せめてタメ語で仰って下さいましと、妙なお願いをしていた。
さらに、まだ劇団員にもなってない、うちの若手にまで、丁寧なお言葉で話しかけられるのである。
当然、若手は舞い上がる。
そして、賀来さんに合わせて、無理に使い慣れぬ丁寧言葉を使おうとして、変なことになってしまう。
「間もなく、賀来さんが来たら、稽古開始させて頂きます。リサさんはもうお見えになってます」
まるで使い慣れぬ、外国語だ。
こんなことを言うと、なにか堅苦しい気配の人かと思われそうだけど
けっしてそんなことはなく、話せば気さくな方なのである。何よりも、常にニコニコして陽気な人だし。
こういう人と会うと、なんか裏があるんじゃないか、実は腹黒いんじゃないかと、疑いたくなるのは世の常である。
でも、そういう気配がホントに微塵も漂わないのよね。
実に不思議な人だなあと、日々、思うこの頃である。
その不思議さを、この方の魅力として、きちんとお客さんにもお伝えしたいなあと、切に思う、この頃である。
高円寺での稽古は、あと一日。
いよいよ、厚木に乗り込みます。