よしえ

 帰宅して、ハガキ類を整理していたら、こんなハガキが。

 これからも、よしえ ともども、よろしくお願い致します。

 松山・道後の温泉旅館からである。

 よ、よしえ、……

 ちょっと狼狽えて、脳内ファイルのページをめくった。
 道後温泉で、よしえ。
 少し意味深過ぎないか。

 やがて思い出した、
 そうか、お部屋係のお姉さんだ。

 滞在中、稽古休みの時に、妻が松山に遊びに来て、せっかくだからと、道後の旅館に2泊泊まったのだった。
 その旅館からのハガキだから、間違いない。

 言われてみれば、名札には、名字じゃなくて、名前があった気がする。
 にしても、よしえ って。

 ちゃんとした大旅館だったが、そういうところには珍しく、若い仲居さんで、感じの良い娘さんではあったが。
 
 これ、家族旅行だったからいいけど、
 もし、ワシひとりで、利楽村を離れて、道後で骨休み、なんかしてたとしたら。
 んで、その係が、よしえ だったら、

 このハガキ、かなり微妙だと、思わぬか。

 旅館の亭主から、よしえのこと、これからも頼みます、みたいなお礼状だよ。

 こっちは、東京から創作をしに来て滞在中の、敢えて言うなら文士様さ。
 
 よしえ、先生はご執筆で、お疲れの様子だから、気晴らしのお相手でもして差し上げなさい。

 疲れた作家とよしえは、ふたりカラカラと下駄を鳴らして、道後の坂を下り、おみやげ屋なんか覗いたりして。
 そんな時に、ふと、よしえが洩らすため息と一筋の涙。

  どうしたんだい?聞いてあげよう。

  うちみたいな田舎娘に、センセ親切すぎるぞなもし……

 まるで、こんなことでもあったみたいじゃないか。

 でも、まあ、丁寧な旅館ではある。
 次に行く時も、ぜひ、よしえにお世話を、頼みたい。
 しかし、そもそも指名できるんだろうか、アレって。
 
 ちなみに、漱石の『坊ちゃん』で有名な、ぞなもし、だが。
 一と月の松山滞在で、ワシゃ一回も、ぞなもし と人が言うのを聞かんかったぞなもし。
 あれは本当に、ある言葉、なのかなもし。



 ああ、どーでもいい、下らんことを書いてしまった。

 
 実は、もう一葉。
 こっちは本当に、大切な知らせが、すっごくあっさり認められた、ハガキが届いていたんだが

 それについては、そのうちに。

 


 

 
 




 

 
 




 


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