ついに 山本亨 の話か。
稽古が始まったのである。
ふたりのアキラ はまだいないけど。
彼らは、つかこうへい をよく知ってるから、心配はないが、
知らぬ者たちに、いろいろ説明、伝授せにゃならん。
そこの台詞の意味は『オレにピンスポを当てろ』という意味だ、とか。
その台詞の裏付けは『とにかく今、目立っておこう』という意味だ、とか。
なんで忠臣蔵の浪士たちがそんなことを思って、言葉を発しているのか、理解できない、平成時代の俳優たちが、うちにも大勢いる。
そんなに烈しく語り続けたら、声が枯れます。声優の仕事が受けられなくなります。
『バカヤロウ、だったらその前に死んでしまえ。芝居はF1なんだーーーー』
とりあえず、そんなこというヤツを、つかさん風のサングラスをわざわざかけ直して、三階の窓から突き落としてやった。
昨今のボソボソ言い合う、低血圧、軟弱芝居に慣れきった、イマドキの俳優たちに、センター・ポジションを奪い合い、声の大きさを競い合う、ことの大切さを、血圧を高くして教える。
もっとも今、ここで最も低血圧なのはワタシなので、終わった頃には、誰よりもぐったりとなり、声が枯れていた。
『ウエハースでも持ってこんか』という、往年のつかファンなら涙なくしては聞けない、キメ台詞の言い方の見本を示そうとして、叫びすぎた。
だって、ボソボソいうんだもの。こんな大切な台詞を。
ウエハース、こそ烈しく叫ばないで、どうするんだ。
つか芝居は、つかれる。
洒落じゃない、マジに。
ところで山本亨である。
最初に出会った時、ワタシは扉座の前身・善人会議を旗揚げして3、4年の頃。
作品でいえば『夜曲』を紀伊國屋ホールでやった直後のことである。
向こうは、千葉真一先生が作った、JAC(ジャパン・アクション・クラブ)の若手・スタントマンであった。
何度か劇団のスタッフをやってくれてた、元文学座の吉川さんが松竹の社員に転身したのだが、彼を介して、松竹の門井プロデューサーから、仕事の依頼が来た。
のちにTPTを起ち上げる、大プロデューサーである。
もちろん、松竹から仕事の依頼をされるなんて、初めてのこと。そもそも、まともにお金になる演劇の仕事なんかやったことなかった。
その仕事とは、JAC(ジャパン・アクション・クラブ)の若手の公演の台本をリライトして欲しい、というもの。
サンシャイン劇場での公演だという。
目がくらんだ。
サンシャイン劇場って。
それまで、ずっとスズナリで公演してきて、ついに紀伊國屋ホールまで来たと思ったら、突然、松竹からサンシャイン劇場での仕事を頼まれ、
しかも千葉真一の、ジャック である。そのころ、真田広之さんもまだ、新鋭の頃。
演目は『七人の戦士』という。台本はジャックの中の人が一応書いてあるのだが、まだ完成されていないので、手伝って欲しい、というものだった。
ただし、出演者の名に聞き覚えはなかった。
アクションアイドルとして売り出した、JRCと、ジヤックブラザース が女性の人気を得始めていると説明を受けたけど、ワタシは知らなかった。
出演者。
春田純一、関根大学、山本亨……
そこに、アキラはいたのだった。
亨 の役は、暴力集団に襲われた村に雇われた、七人の戦士のひとり。
元ボクサーで、なぜか無闇に子供に好かれる、男。
ただし、激戦で脳に傷があり、烈しいことをすると死んでしまう、男。
確かそんな感じだった。
察しの良い方は、これでわかると思うけど、黒澤明の『七人の侍』のパクリである。
春田純一さんは、トップと喧嘩して、警視庁をクビになったはみだしデカ。関根大学さんは、演歌好きの元やくざ、ではなかったか。
おもいっきりベタなのが、今思い返しても、いっそ清々しくさえある。
そういえば、音楽監督は、ワイルドワンズのキーボードで、一番若いメンバーだった渡辺茂樹さん。
今も時々、テレビ等でお見かけするたびに、懐かしさに涙が出そうになる。
振り付けは、謝珠恵先生だった。謝先生は、ジャックスクールのダンスの先生であったはずだ。
演出は、梶賀千鶴子さん。そのころ、少年隊の錦織さんのミュージカル『ゴールデンボーイ』とか、演出されていた元四季の方。『ユタと不思議な仲間たち』の作者でもある。
そうそうたるメンバーである。
そして、この舞台でワタシは、照明の塚本悟さんと出会っている。
塚本さんが、善人会議というか、スズナリとかでやってる小劇場って、とっても興味があるから、ギャラとかいらないから、一回やらせてくれ、と言ってくれたのだ。
以来、25年の付き合いになっている。
今年の松山も、今度の忠臣蔵も、お願いしている。
もっともこの『七人の戦士』がどんな涙と笑いの物語だったのかは、
拙著『考えて夜も眠れない』に詳しく書いたので、気になる人は、ぜひそこでチェックして頂きたい。
若き日の横内クンが、この仕事をやり遂げて、サンシャイン劇場のロビーで、ハリウッドから緊急帰国されたサニー千葉総裁とついに出会い、関係者全員直立不動の中、
総裁から握手を求められた後に、衝撃のお言葉を賜るシーンは、
涙なくしては、語れない。
このエッセイ集は、坊ちゃん劇場のロビーでも絶賛発売中である。今度の公演のロビーでも売る予定。
長くなったから、続きは、また次回。
とにかく稽古は無事に始まったから、安心してチケット買い求めて下さい。
劇場が狭いので、急いでくれなきゃ、売り切れ日が出てしまいます。
燃えずにシラケて涙も出ない、この時代に敢えてぶつける。
燃える、泣ける、キマル。
つか版忠臣蔵 にご期待下さい。