想えば
伊達政宗の本を読んでいたのは、松山の東温市。
坊ちゃん劇場の『幕末ガール』を演出している時だった。長い長い小説を、稽古の前後に読んでいた。
出演者の都合があるから、粗筋だけは急いでくれと急かされつつ。
政宗は長生きだったから、生涯を知るのは大変だ。
今回の舞台では、仙台のことにも、スペイン派遣にも触れられなかった。
それらは人生の半ば過ぎの出来ごとで、すべてやるには、スーパー歌舞伎ぐらいの三幕仕立てが必要だろう。
で一番活動的だった、秀吉との出会い辺りまでに焦点を絞った。
そして
今東京で取りかかっている、天下茶屋の骨組みみたいなのは、『つか版・忠臣蔵』を稽古している頃に、こっそりとやっていた。
扉座座員も、忠臣蔵に夢中で、秋の公演なんか、ほぼ無関心であった頃だ。
まあ、そういうものだから仕方ない。
そして今も、『天下茶屋』を稽古しつつ、来年以降の仕込みをやっている。
ただそうやって、今出す料理作りと、明日出す料理の仕込みを同時にやった結果、
いつやってたの、と身内も驚くような状況がたまに生ずる。
それやこれやで整理すると、
目下、私の作で、興業として上演中なのが
松山・坊ちゃん劇場の『幕末ガール』
全国公演のわらび座『ミュージカル・アトム』
大阪オリックス劇場の『影武者・独眼竜』
まもなく来週の土日、厚木で扉座の『端敵☆天下茶屋』もそこに加わる。その後は、高円寺で。
独眼竜以外は、演出もわたし。
我ながら、たいしたものよのうと、想う。
そのどれもが、すべての人から喝采されているワケでもなかろうが
とりあえず、それぞれの劇場で、たくさんのお客さんに観て頂いている。
全部観てくれるという、お客さんも少なからずいる。
たぶん、あちこちに、幕末なのに、政宗の香りがしたり、
天下茶屋なのに、忠臣蔵とか、ミュージカルの気配があったりすると思う。
政宗には、とうぜん、本を読みつつ、毎日たくさん食べていた松山のミカンの香りが漂っているはずだ。
自分でも、その舞台を観るときに思い出す。
ああ、あの時は、松山にいたんだなとか。この部分は秋田の角館で書いたな、とか。
多分、人には分からないだろうけど、そこにあるセリフは、その時見えていた景色や、聞こえていた音や言葉に、ほんのり味付けされている。
今日は錦糸町で、天下茶屋の衣裳合わせと、通し。
オリックス劇場は大阪千秋楽。熱く盛り上がることだろうよ。いられなくて残念。