阿呆鴉 裏話し

 浪花阿呆鴉の元ネタは、パンフにも書いてあるけど、大阪の講釈師・旭堂南海さんの講談である。
 数年前、明治で途絶えていた。雁金文七の話を7夜連続の長編にして、語られた。
 この録音をプロデューサーから貰って聞いたところから、製作は始まった。

 文七も仲間たちも、実在の人ということになっていて、谷町九丁目という劇場の隣町のお寺に、文七とセン右衛門の墓もある。
 手の付けられぬ不良たちだったそうな。

 しかしこの不良どもがいろいろの経緯を経て、義憤に駆られて、偽金作りをしていたヤクザ一家と闘ったという話し。最後は、市中引き回し打ち首となった。
 
 話の中に、道頓堀の劇場で芝居の最中、ヤクザ一家と大立ち回りをしたというシーンが出てきて、これはストーリーというより、演出としてリアルに組み込み、新歌舞伎座の客席中を使って、大立ち回りをしている。
 
 もっともそれは、つい先月までやってた、新水滸伝の二番煎じ。

 しかし、これも『二番煎じ三番煎じこそ大事、おおいにやるべし』という、三代猿之助の教えである。
 宙乗りは別に僕の発明でも、独自の芸でもない伝統的な技だけど、ひたすら百番煎じ続けたら、私の特許のようになったでしょ。と師はかつて語られた。

 だから美味しいお茶は、私も、何度も煎じることにしている。
 何度も煎じられる、茶葉を持てと言うことだろう。

 チャリは、講談には出てこない。
  
 『チャンバラ☆スターライトエクスプレス』との評判、愉快な限りでありますが。
 ロンドンミュージカルと並ぶ、時代劇ってなかなかないでしょ。

 しかしこのチャリも、まんざらデタラメではなくてね。

 平賀源内の時代の奇人で、道陀楼麻阿(どうだろう まあ)というふざけたペンネームの狂歌師が、世の中の面白い話題をいろいろ書き留めているんだが
 その中に、豊島の池袋村の鍛冶屋のせがれが、棒の前後に車輪を取り付けて、そこに座布団を敷いてまたがり、坂道を駆け下りたが、それが馬より早くて、世間の人を驚かせた。
 とある。

 当時のマンガみたいな本の中だから、真贋は怪しいが、一説に我が国初の自転車といわれている。
 そして、この鍛冶屋のせがれが、後に盗人をして処罰されたというのである。
 この男の名が黒鉄勘吉。その時に、チャリを使ったとは書かれてないけど、
 いつか、これをネタにして自転車が江戸を走り回る、変な時代劇を書こうと思っていた。

 新歌舞伎座で若い座組の新作を書くにあたって、何か良い趣向はないかと思案し、思い出したのだった。
 
 今、小早川君が演じている、センエモンは講談では、極印のセンエモンという。 
 オヤジが小判に押す印鑑作りの職人で、野田藤一家の陰謀にはめられて殺された敵討ちで、文七らに加わるというのがストーリー。
 
 今回は自転車の発明家の設定に換えさせて貰い、その黒鉄の名を借りたのである。

 そんな阿呆鴉

 昨夜は、予定にもないカーテンコールだったそうだよ。
 お客さんがスタンディングで、鳴りやまなかったって。

 演歌の殿堂、新歌舞伎座でだよ。

 とっておきのネタ出した甲斐があった。
 あとはただ事故のないことを祈るばかり。

 昔、ロンドンで見た『スターライトエクスブレス』では、最前席に、ローラースケートのダンサーが突っ込んでいったけど、
 それは演出だった。

 一瞬思い出して、やらせかけたけど、
 ローラースケートとチャリじゃ、危険度も違うしな……と自重。
 それでも前の座席は、かなり迫力有ります。






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