ザ・レジェンド

 往年のファンなら、喜んでいただけるはず。
 今回、杉山良一が、久しぶりに舞台に立つ。4年ぶりなんだそうな。

 一度、死にかけたクモ膜下出血からは、奇跡の回復を成し遂げ、舞台復帰はしていたが、どうしても、昔通りと言うわけにもいかず、
 本人も忸怩たるモノを抱えていたり、

 加えて私生活の方で、ちと忙しくなったりして

 俳優活動から遠ざかっていた。

 一応、毎回出演の意思を確認しているんだけど、
 今回は遠慮するよ…… 
 みたい返事が続いてズルズルここまできちゃった。

 しかし、今回の公演では、
 かなり強引に誘った。

 花組芝居の、水下きよし氏の死がキッカケである。
 水ヤンと、杉山は、熱い、酒飲み仲間だった。
 20代の前半から、ずっと。

 これは作り話ではなく、実話なんだが。
 水ヤンの通夜の夜。というかたぶん明け方近く。

 水ヤンが夢に出てきた。
 なんかカッパの着ぐるみを着て、私の前でおどけている。
 と思ったんだけど、よく見ると、必死の形相で、身振り手振りで、何か私に訴えかけているのだった。
 
 目が覚めて、この公演に、杉山呼ばなきゃ。
 と思ったのだった。

 この頃、すでにチラシなども入稿していて、
 出演予定のない杉山の名は、どこにも入っていない。

 
 だからホントに、この時、突然思い立って、すぐに連絡を取り、事務所に呼んで。
 とにかく、出ろ、出てくれと、頼んだのである。

 何しろ水ヤンの遺言なんだ。
 杉さんの舞台が、も一回観たかったよ、と。

 私の本気を感じてくれて、杉山は受けてくれて。
 急遽の出演が決まったのだ。

 後遺症で、
 新しい台詞が入りにくかったりする。
 こんとこ、ずっと動いてなかったらしく、足腰も妙に弱っている。
 オレより一個年下なのに。情けない。

 でも出演を決めて、
 久々の出演のため、トレーニングを始めた。
 少ない出番だけど、ずっと稽古場にいて、自分の稽古をしている。

 その結果
 この舞台では、杉山にしか出来ないモノを、お見せすることが出来そうだ。
 あれは、水ヤンのアドバイスだったのかもしれないと、今は思う。
 決定版にするには、このピースが必要だよ、と。
 これがなきゃ、大願成就も討ち入りもないよ、と。
 
 水ヤンに感謝しなきゃイカンな。

 我々が初めて紀伊國屋ホールに進出した時、『夜曲』の、黒百合という役を演じて、一躍、小劇場界のスターになった男である。
 あれから三十年近く経って、
 今はほんの小さい役だけど

 一度は死線を彷徨いながらも、生き返り
 今こうしてまた、紀伊國屋ホールの舞台に立つ。

 意地悪でエグい、演劇の神様に捧げるには、よいお供えになるんじゃないかと思っている。
 そしてきっと
 水ヤンが喜んでくれるだろう。

 なんだか、辛気くさい話で申し訳ない。
 若者たちは呆れるだろうな。

 そんな因縁話で芝居こしらえるなよ、と。

 だが
 これが年月というモノだ。
 いろんなもの引きづりながら、我々は生きて、無様を晒して、芝居を続けるのである。

 その無様の果てに、きっと光が見えるはずだと、信じて。

 明日から
 『つか版・忠臣蔵』3回目の上演です。

 お陰様で、連日座席が、埋まっていっております。
 しかし今ならまだまだ、良いお席もご用できますので

 どうぞお早めに、ご予約を。

 

 
 
 

 
 


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