舞台はいいね
大阪新歌舞伎座の『新水滸伝』の初日。無事にあく。
ル・テアトル銀座の初演から七年で、四回目の上演。
今や猿之助四十八撰 という、何か立派な演目群のひとつになっている。
その中身は、初演の舞台と比べたら、もはや別物と言うぐらいに進化している。
演出はもちろんのこと、ホンもかなり書き直した。今思えば、まだまだ未完成のものを、皆様にお見せしてしまっておったなあと、反省するほどに。
しかし初演の時、ともに働いた人の多くが、もはや会えぬ人となっている。
音楽の加藤和彦さんとか、出演していた金田龍之介さんとか、さまざまアドバイスしてくれた藤間紫さんとか……
そういう人たちの力が土台としてあって、ここまで練り上がって来た。
皆さんに、今日のこの舞台を観て頂きたかったなあ、としみじみ思いつつ、初日の客席にいた。
特に一緒に、大きな苦労をした加藤さんにはお見せたかった。
今のこの舞台では、加藤さん作曲の音楽が全編なり続けている。
劇中・突然ミュージカル化して歌う、梁山泊の歌は、作曲・加藤和彦、作詞・横内謙介というもの。
ちなみにこのシーン、さすがの大阪のおばちゃん達にも、何始めるねん、この人ら何でもありかいな、と呆れられている気配もある。さいしょの頃は、一座の人々も、半信半疑で歌っていたものよ。
だがそもそも、歌を入れて、皆で歌えと仰ったのは、猿翁さんである。
今となっては、大切な宝物であり、皆、楽しげに歌っている。
このシーンも含めて、お客さんたちも大きな拍手で盛り上げてくれて、とても熱い初日であった。
その熱い舞台の総仕上げが、カーテンコールの猿翁さんの登場であった。
先月中から、猿翁さんが大阪の初日には行きたいとおっしゃっていると、メッセージを頂いていたが、
この暑さだし、それほど期待せずにいたのであるが、本当に新歌舞伎座に現れられて、カーテンコールにもサプライズで出て下さることになった。
ちなみに舞台でお座りになる、専用のお椅子も、東京よりの、ご持参で。
不詳私も、そのお供でお隣に立たせて頂けることに。
二年前の新歌舞伎座公演は体調が整わず、ご来場頂けなかったので、その喜びもひとしおであった。
それは一門の人々も、お客様も同じだったと思う。
猿翁さんは座ったままだけど、音楽に合わせて、手を上げて、凛々しくご挨拶なさっていた。
舞台にいた我々も、涙がこぼれ、舞台から見えたお客様方の頬にも涙が光っていた。
そんな初日の後、猿翁さんのお部屋にご挨拶に行った。
「元気になったでしょ?」と笑顔で一言。
確かに、春ごろお会いした時より、すこしふっくらされている。
そしてもうひとこと。
「久しぶりに楽しかった。舞台はいいね」
初日のカーテンコール後、帰り際に、毎日出たいと、仰ったと聞いたが、
本当だった。
そして、昨日、二日目の夜のカーテンコールにもご登場なされた。
今後もその、ご登場が続くのかどうか、ご体調のこともあるし、何とも言えぬが、
初日だけの予定を、自らのお気持ちで変更なさったのは、事実。
とても嬉しい、公演になった。
舞台はいいね。
私もそう呟きつつ、東京に帰って来た。
さて待ち構える「ワンピース」の打ち合せ。
そして明後日から博多入り。
大阪で力を貰った。
これでしばらく頑張れる。