言葉、言葉、言葉!

第四幕第三場
This day is called the feast of Crispian:
今日はクリスピアンの祭日である。
He that outlives this day, and comes safe home,
今日を生き延びて、無事家に帰る者は
Will stand a tip-toe when the day is named,
今日の事が話題となれば、思わずつま先立ちし、
And rouse him at the name of Crispian.
クリスピアンの名を聞く度に血が沸き立つであろう。
He that shall live this day, and see old age,
今日を生きて、老後を迎える者は
Will yearly on the vigil feast his neighbours,
毎年その前夜祭には、隣人たちを宴に招き、
And say 'To-morrow is Saint Crispian:'
「明日は聖クリスピアンの日だ。」と言うだろう。
Then will he strip his sleeve and show his scars.
そして袖をまくりあげ、傷跡を見せて、
And say 'These wounds I had on Crispin's day.'
「これらはクリスピンの日に受けた傷だ。」と言うだろう。
Old men forget: yet all shall be forgot,
老人はものを忘れるものだ、しかし他全てを忘れても
But he'll remember with advantages
その日に立てた手柄のことは、話を盛ってでも
What feats he did that day: then shall our names.
思い出すであろう。その時我々の名は
Familiar in his mouth as household words
日常用語として彼の口にのぼり、身近なものとなり、
Harry the king, Bedford and Exeter,
王ハリー、ベッドフォードやエクセター
Warwick and Talbot, Salisbury and Gloucester,
ウォーリックやトールボット、ソールズベリーやグロスターは
Be in their flowing cups freshly remember'd.
溢れる盃を交わす度に鮮明に思い出されるであろう。
This story shall the good man teach his son;
今日の事を父親は息子へと語り継ぎ、
And Crispin Crispian shall ne'er go by,
今日から世界の終わる日まで、
From this day to the ending of the world,
クリスピン・クリスピアンの日が来れば必ず
But we in it shall be remember'd;
今日の事が語られ、我々は思い出されるであろう。
We few, we happy few, we band of brothers;
少数ではあるが、我々幸せな少数は、兄弟の一団である。
For he to-day that sheds his blood with me
なぜならば今日私と共に血を流す者は
Shall be my brother; be he ne'er so vile,
私の兄弟となるからだ。いくら卑しい身分の者も
This day shall gentle his condition:
今日からは貴族となるのだ。
And gentlemen in England now a-bed
そして今イングランドで床に就いている貴族たちは
Shall think themselves accursed they were not here,
この場に居合わせぬわが身の不幸を呪い、
And hold their manhoods cheap whiles any speaks
男が廃れる思いを噛みしめることになるだろう。
That fought with us upon Saint Crispin's day.
我々と共に戦った者が聖クリスピンの日の手柄話を語る間は。


 インクランドの王子、ハル王子は若い頃、放蕩にふけってまったく頼りにならない若者だった。それが亡き父の王冠を受け継ぎ、ヘンリー五世として王に即位した途端、人が変わったように立派な王となり、目覚ましきリーダーシップを示して、フランスとの百年戦争に勝利する。

 上記のセリフは、シェイクスピアの史劇『ヘンリー五世』より。
 決戦地のアジンコートでヘンリー五世が語る、名高き演説である。
 アジンコートの演説と呼ばれている。
 シェイクスピア俳優にとって、一世一代の聞かせどころと言われる名セリフである。
 映画では、イギリスを代表する俳優、ケネス・ブラナーが、熱く格調高くやっていた。
 
 絶望的な戦いに向かう前夜、疲れ切り、援軍を求める兵士たちを鼓舞する。
 我々は少数だが、幸いだ。おかげで名誉の分け前が多くなる。
 この闘いを以て、諸君は貴族になるのだ、と。
 
 一国のリーダーとは、いざと言う時に、命がけでこういう言葉を発する人であって欲しい。
 さもなくば、誰が命を預け、生活を預けるものか。
 シェイクスピアもそう思って、頑張ってコレを書いたことだろう。

 首相は王じゃないし、今の事態は戦争とは違うけど……
 みんなが一つになって、困難に向かわなくてはならない時に、あまりにも私たちを勇気づける言葉が足りない、というか皆無だ。
 兵士(=補償予算)が少なくても、心に沁みる言葉があれば、もう少し良い方向に向かうだろうに。
 マスクなんかいらないんだ。
 変な動画もいらない。
 整ってなくていいし、美しくなくてもいい、この際平仮名でもいいだろう。ただただ人の心に響く言葉を、思い浮かばなかったら、寝ずに考えて、考えて、これしかないと言う自分の言葉を、命がけで語り掛けてくれ。

 心配なのは、無能なリーダーが迷走する間に、やたら演説だけ上手い、新たなペテン師が登場してくることだ。
 歴史上、最大の痛恨事はヒトラーの出現だろう。
 今、みんなが、頼りになる慰めと、強い励ましに飢えているから。
 強い言葉を欲しているから。
 その方面に長けた者なら、口先三寸、いくらでも人々を煽り立てられるだろう。

 言葉がない。

 それはこの世の終わりだ。

 ヘンリー五世は、こんなことも言う。

王の責任か!ああイギリス兵の命も、魂も、借金も、夫の身を案ずる妻も、子供も、
それまで犯した罪も、すべて王の責任にするがいい!
俺は何もかも背負わねばならぬ。この過酷な条件は
王という偉大な地位とは、双子の兄弟なのだ!

(第四幕第一場)


★上記のセリフは、適当にネットから引用したので、あしからず。






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