エンゲキ虎の穴

 幻となった、本年度新規募集した扉座研究所第24期。入所金の払い込みまで終わって、あとは開講するだけだったのが、このコロナ騒動によって、中止せざるを得なくなり、全額返金と相成った。
 しかし、せっかく扉座に来てくれたのに、これにて縁が切れてしまうと言うのもあまりに切なく、また研2という2年目の研究生たちも、ひたすらウェイティング状態なので、とにかく今、出来ることをと思い、お詫び&サービスとして、オンラインでの無料講義を細々と始めた。
 今のところ、週一で、座学中心。
 今日までで、2回をやった。
 
 双方向でのやりとりは可能なZOOMを使っているが、今のところは私が言いたいこと、伝えたいことを一方的に講義して、最後に質問を受け付けるようなスタイル。大学の講義みたいな感じである。
 考えるより、とにかく動け、体験しろという実践主義がモットーだった扉座研究所としては、今まであんまりやってこなかったスタイルではある。

 ただ、改めて、講義を始めてみて、今まで若い人たちに、こうして言葉で私の考えを伝える機会が極めて少なかったことに気付いた。
 
 限られた時間で発表会とか、卒業公演を創り上げるには、イチイチ理屈を述べ、知識を授ける暇はなく、とにかく、ここまで渡って来いと、いきなりプールに突き落として泳ぎを習得させるようなやり方が手っ取り早かったのである。
 
今まで、語りたいことがなかったわけではない。

私も若輩の頃から、ひたすら手探りで試行錯誤を重ねて、芝居作りのノウハウを学んできたワケであるが、その経験も40年以上になっていて、振り返れば知識や技術の蓄えもそれなりのものになっている。
 学生劇団からの自己流小劇場あがりではあるが、歌舞伎の世界とか、ミュージカルとか、いろんな仕事もやらせて貰って来た。未整理なまま、雑多に齧りつき、食い散らかして来たものではあるけれど、仕事をして得た体験の幅の広さには自信がある。
 大ざっぱな性格上、体系的なメソッドなんてものにはとても至らないけれど、先達者として、後に続く人たちに、多少の水先案内ぐらいは出来るよなあ、と思うのである。

 講義名は『エンゲキ虎の穴』という。
 あくまでも私の個人的な演劇観に基づいた、演技についてのか考え方とか、演劇史とかを語っている。
 大きな目標は、実践的なプロの芝居の稽古に、若者たちが臨む時に、少しでも手助けとなるような知識と考え方を伝えること。
 小さな目標としては、私が彼らと仕事をする時に、初歩的な解説、ディスカッションを飛ばして、共有することの出来る演劇観を持って貰うこと。
 私の身近にいる俳優たちには、ああ、こいつを使いたい、こいつと稽古がしたい、この俳優にこんなセリフを言わせたい、是非そう思わせて貰いたい。
さもなくば、出会ったことが、お互いの不幸となる。
 
 私の本業は演技の指導教授ではなく、劇作家、演出家なのだから。
 今やっていることは、いつか真剣勝負の稽古場で出会う為、ともに一つの舞台を創り上げる為の準備でなくてはならないと思っている。
 
 まだまだ慣れないオンラインで、手応えも甚だ希薄ではある。
 届けと思って気を込めて語ってはいるが、PC画面に向かって、語り続ける虚しさはどうしても残る。
 特に相手は若い人たちで、出来ることなら、その熱を直に感じつつ、皆の目を見て語りたい。
 ただ、こんなことがゆっくりと出来るのは、私も幻しの研究生たちも、突然、有り余る自由時間を得てしまったからで、こんなことでもなければ、今頃はまた、本書きと雑用に追われて、慌ただしくしていただけだろう。
 若者たちにしても、家でじっと理屈を聞いているのは辛かろう。演劇なのだから、そりゃカラダを動かして、実践したいだろうよ。

それが許されず、今はひたすら言葉を身に刻む。
こちらは思いを言葉で伝え続ける。

ある意味、贅沢な時間なのかもしれないと思う。
しばし立ち止まって、ゆっくりと話す時間。

 私にしても、いつかはまとめて後進に伝えたいと思っていたことを、このタイミングで一度、整理し、まとめるチャンスでもある。

 そして
もし、こんな私の話に興味を持ってくれる方がいるのなら、今後、そういう方たちに広く届けることも出来たらいいなと思っている。
 今までのような研究所は出来なかったけど、カタチを変えて、続けていくことが出来たら、更に今までにはない可能性がそこから生まれるなら、劇団が生き延びてゆく道も拓けてゆくというものだ。

 ネットの良いところは、全国津々浦々、その環境さえ整っていれば、地球の裏側の人たちにも同時に繋がることだ。
 扉座研究所にしても、私たちのワークショップにしても、その場に来て貰うことが必要条件であったが、これからは今まで参加が不可能だった遠くの人にも気楽に参加して貰うことが可能になるだろう。
 
 人の集う劇場が滅ぶなら、ともに消えるという覚悟に今も変わりはない。
 しかし、この停滞の間に、芝居の鮮度が落ちることのないように、むしろこの時間によって更に熟成出来たと言えるように、
 新しいことに挑む所存だ。
 
 間もなくいろいろ発表できると思う。乞うご期待。


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